その10.起・承・転にアイデアを盛り込む場合の考え方

 前回は『起承転結において『起』からアイデアを盛り込んでいく流れと、そのためにまず必要な『テーマの具体化』』について解説しました。


 今回はその続き『『起・承・転』にアイデアを盛り込む際の基本的な考え方と注意点』を解説します。



 まず『起』にアイデアを展開する際、『できる限り問いかけテーマに絡められるアイデアを採用したほうがいい』です。いっそ、テーマの問いかけを直接読者に喚起させる流れにしてしまっても構いません。極端な話、例えば登場人物の1人が『男と女の友情って成り立つと思う?』とセリフで主人公に直接問いかけるような流れにするのもアリ、ということです。


 なぜかというと、話の序盤である『起』の段階というのは読者も物語をつかみ切れておらず、そこにテーマとは関係ない面白い展開をされてしまうと、読んでいるうちに『どれが本筋?』と混乱してしまう場合がありまして。


 もちろん絶対にやってはいけないということではなく、その混乱を逆手に取って作品を面白く作れるセンスのある人もいるにはいます。それでも、成功する確信が持てるまでは避けたほうが無難でしょう。


 ちなみにテーマの問いかけを描写するタイミングは『起』『承』のどちらでも構いません。


 ただその際、問いかける前に読者にそこまでのプロセスを説明する必要があり、また問いかけたあとはそれに主人公がどう思ったか・反応したかを描写する必要があります。ですので、可能な限り『起』の終わりごろから『承』の始まり付近で問いかけをするのがベターかと。


 もっともこれも必須というわけではなく、例えば話の冒頭でいきなり登場人物が作品のテーマに直接関わるセリフをぶちかます作品もあります。ただ、そこからキャラのセリフだけで読者を魅了して引っ張れるような書き手の技量が必要、など高度なテクニックを要求される場合が多いので、採用する際は慎重に考える必要があるでしょう。



 『承』にアイデアを展開する場合の基本方針は大体『起』と同じ。


 また『起』でテーマを投げかけなかった場合は代わりに『承』でテーマをできるだけ早いタイミングで投げかけたほうがいいでしょう。『起』ですでにテーマが投げかけられた状態にあるのなら、その投げかけに主人公がどう応じたのかを『承』で描写します。


 そして、可能ならできる限り読者の期待(その物語を読み始めた動機)を裏切らず、それに答える形で展開させたほうがいいでしょう。(前々回の『『承』には『お約束』をいれたほうがいい』という説明はこれに繋がります)。


 読者が作品を手に取るときは、内容に関してなにかの期待をしている場合が多いわけで。ギャグ作品ならギャグ、ラブコメならラブなコメディー、バトル物なら戦いと勝利、転生や追放ものならざまあ展開など、自分の好きなシチュエーションを見たくて手に取る場合が多いでしょう。


 そこで『貴方の期待するものはここにある』と言わんばかりに『承』で読者に応えることによって、『これを読み始めて良かったのだろうか』みたいな読者の不安は解消され離脱されることなく読書に没頭してもらえるというわけです。


 そしてそれと共に『この先も読んでいけば、自分は満足できるに違いない』と思ってもらえれば大成功。読者を重視した場合『承』が持つ大きな役割はここにあると言っても過言ではないでしょう。


 といっても、逆に読者の期待やテーマとは敢えてまったく真逆な展開にしていくやりかたも手法としてあります。例えば『起』で友情をテーマにしているのなら、その友情を否定するような展開を『承』に敢えて入れる。それで物語を波乱に満ちたものにするというやりかたもあるということです。


 ただその場合、一歩間違えると読者離れを大きく引き起こしてしまう可能性も少なくありません。なので、確信がない限りは慎重に話を進めたほうがいいでしょう。


 というか個人感では、キャラクター性を全面的に押し出している書き手、もしくはこういう波乱が好きな読者をメインに考えてる場合でもないかぎり避けたほうが無難かと。また三幕八場構成的な考えから見ても、真逆な流れを入れたいなら『転』がより適切と思われます。



 『転』にアイデアを盛り込む場合、『起』や『承』とは違いむしろテーマや『起・承』の流れに逆らう内容やアイデアを盛り込んだほうが『転』としての機能をうまく活かせる場合が多いと思われます。(前々回の話の『『転』でギャップを与えることでオチの『結』がより劇的になる』に繋がります)


 例えば友情をテーマにした場合、『『起』で友情が示され、『承』でそれが強調され、『転』でそれが揺らぐが、『結』で改めて確認されて終わる』としたほうが、『『承』から『結』の流れで友情に揺らぎもなく終わる』より話が劇的になるわけです。


 また、『転』の展開からそのままなし崩し的に『結』に持ち込んでテーマに対して『No』を突きつける流れもアリ。ただ、ほぼ間違いなく読者を選ぶ作品になるので、やるなら自分の目指すところや技量と相談の上でやったほうがよいかと。


 ちなみに読者の期待にそわない展開を『承』に入れて裏切る場合と違い、『転』に入れた場合『承』の段階で読者の感情移入が進んでいる可能性が高いため、読者の離脱が起きにくくなっている可能性があります。それも真逆展開を『承』ではなく『転』にいれる利点と言えるかと。



 こうやって『起』『承』『転』と考え、繰り返し各段階にアイデアを積み上げていきます。その間、常に話の終わりを意識し、『結』をどうするか並行して考えていくと良いでしょう。


 そして、途中で『もうこの作品はこの結末しかありえない』と思えるまでの結末が考えられたなら(あるいはスケジュール的に時間切れが迫ってきたらw)、話の終わりに向けて『結』を詰めていき、作品の大筋を完成させます。



 次回は『起承転結』に『三幕八場構成』を絡めた私論を述べたいと思います。

 前に『『起承転結』には問題点が指摘されている』に関係した話となります。

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