その8.オチから考えていく『起承転結』構成の実践例

 前回は、『起承転結』についての説明と、その構成法で具体的にアイデアをストーリーに落とし込む方法を説明しました。

 今回は、前回を踏まえて『美形のゴブリン』を例に、落とし込む思考の流れを具体的に書いてみます。



■ まずオチに、アイデア『美形のゴブリン』をすえる方向で考える。

 このアイデアは意外性を狙えるものだと思うので、例えばオチは「主人公たちが対象のゴブリンと出会って予想外に美形なのでびっくりする(読者もびっくり)」としてみる。


■ 次に、オチである『結』を生かすために『転』をどう描くか考える。

 『結』の意外性を強調するために、今回の場合『転』ではゴブリンが醜いものであることを強調してみる。例えば今回の物語を『ゴブリンの群れを討伐する話』にして、巣窟の奥ですごい醜くて強いゴブリンを倒して安心していたらモンスターがその死に際に『我らのボスはもっと醜くて強い』みたいな捨て台詞を吐く。そのあと美形のゴブリンが出てきたら、驚きが増すのでは?


 また『転』で出すゴブリンをいかにもラスボスっぽく表現すれば、『自分たちが倒したラスボスっぽいゴブリンが実は違った』という驚きも与えることができるかもしれない。


■ 『起』『承』はその説明や補強に充てる。

 『起』は物語のスタートであり、『日常』から『ゴブリンを倒しにいくことになったいきさつ』を説明。


 『承』では、『転』『結』いたる前振りとして、討伐に関する情報を主人公たちに収集させるついでに『転』や『結』に関係する前振りをこっそりばらまく。今回の場合、例えば『対象のゴブリンがとても醜く、同族からも忌避されている』みたいな情報を主人公たちが耳にするような描写、など。


 また前振りとして、美形のゴブリン本体が正体を隠したままこのタイミングで主人公たちの前に姿を見せれば、『結』まで読んだときに「あそこに出てきた美形のこいつがまさかターゲットだなんて」という驚きをさらに読者に与えることができるかもしれない。



 そして以下ができあがったあらすじです。


起:主人公たちが美形の亜人からゴブリン退治の依頼を受ける。


承:情報を集めると、どうやらゴブリンのボスはすごく強くて醜く、仲間の間でも忌避されている存在らしい。


転:ゴブリンを退治するため巣に乗り込む。ボスらしい強敵と戦うがそいつは本当のボスではなく、更に強く醜い相手が最奥にいるようだ。


結:奥には自分たちに依頼をしてきた美形亜人がいた。そいつはゴブリンとなにかのハーフで、自分たちの集団の行為を見るに見かねて依頼してきたらしい。醜悪というのはゴブリンの美的感覚から見てという話で、ゴブリンから見て醜くても人間から見れば……ということだった。



 こんな感じで、『結(オチ)』でアイデアをどう表現するかを考え、それを生かすために「転」をどう作るかを練り、その説明と前振り(あるいはミスリード)のために『起・承』を盛り付けていく。という流れで考えていきます。



 ただ今回説明した手順はつまるところ「まずオチから考えて、遡って話を作っていく」手法。このやりかたが苦手な人や、状況的に難しい場合も大いにありえると思います。


 というか例えば多くの連載作品の場合「まずキャラや舞台を作って、そこでキャラをどう転がすか」みたいな作りかたになると思います。


 またアイデアがオチよりも出だしや場面に変化を与えるのに適した内容である場合も往々にしてありえると思います。


 例えば拙作『追放騒ぎのあったパーティーにあとから入ってきたモブですが何か?』は、『追放モノで主人公が追放されたあとに補充要員として入ってくる人物にも人生がある』という発想が出発点になっています。

 また『イグドラシル/サバイバー』は『大手国産RPGのプレイヤーを集めて一箇所で異種戦闘バトルロイヤルをやらせたい(あるいは異世界版『ウルトラファイト』)』という発想が出発点。

 どちらもオチより『起』の段階から出したほうが活かせるネタかなと。



 次回はそういう視点から、『起』や『転』にアイデアを適用する考えかたをまとめたいと思います。



追記

 余談ですが、富樫先生のHUNTER×HUNTERという漫画作品の場合、最初の段階でオチを数パターン考え、物語を描きながら読者の反応を見てオチの落としどころを定めていく(ただし理想は、最初に考えた数パターンのオチとはまったく違う、より良いオチに話を持っていくこと)という手法をとっているらしいです……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る