美学:<其の二>
「……だから何だよ。それが犯罪だとか言うのか?あいにく俺は『夢喰い』としての任務をしてるだけだ。むしろ、俺に手出しするって言うなら、そっちの方が犯罪者だぜ……それでもいいのか?」
『ハハハハハッ!一人前に脅しとはっ!つくづく野蛮な子ですねぇ。あなたのような少年は、少女の愛を受けることはできない……残念ながら、私の作品にしてあげることはできません!』
「は…………?」
甘井は、単に怒りに任せて恋を拘束したのではないらしい。それが重罪であることを指摘されたのにもかかわらず、一切動じない。
これは本格的に——まずい。恋の地位に訴えると言う最後の希望も、あっさりと潰えたことになる。
『――ですから代わりに、あなたにはその糸の苗床になってもらいます。』
天井から新たな糸の群れが這い降りてきて、恋のうなじに絡みつく。
「やめろっ、おい……クソッ!ちょっと、待――」
糸の先端が恋の顔を這い回り、耳や口や鼻に入り込んでくる。
「あっ……あ゛あぁっ、や、め、ろ…………!!!」
糸は恋の中を探り、抉り、魂の深い部分までをも犯して行く――恋の両目があらぬ方向に向き、体が操られるようにけいれんし始めた。
『もう遅いですよ……やれやれ、少々おしゃべりに時間を使い過ぎましたね。』
甘井は両手から糸を繰り出し、倒れている鈴木と梅原を回収する。
「……さあ、そろそろ梅原君が『解脱』する頃合いです。お二人とも今度こそ是非、誰にも邪魔されることなく、2人きりで愛を育んで——」
ふと甘井の目に、天井から吊り下げられた恋の姿が映る。さっきまで必死で抵抗して叫んでいたのに、今は微動だにしない――もう糸に浸食されきった、という訳ではなさそうだった。
そしてその眼窩からは、眼球が消えていた。
甘井は怪訝そうに、近くに寄ってよく見てみる。
『……これは…………抜け殻?』
――甘井の背後から、思い切り金棒を振り下ろされる。
グシャッ!と鈍い音に続け、更にワンテンポ遅れて電撃が加えられる。
『っ!!!あがががががっ!!!』
甘井はぐるぐると目を回しながら、何とか振り返って腕を振り回す。その動きに合わせ、赤い糸の群れが恋を襲う。
恋は地面に金棒を突き立て、電磁場を起こして身を守った。
『ぐっ、食らえ!これが愛の力っ――』
甘井は胸のハートから、毒々しい紫色の液体を噴射する。
「――
恋の前に、赤く長い体毛を持った獅子が出現して甘井の攻撃を防ぐ。獅子は見る間にどろどろと溶解していくが、その後ろから更に、他の獅子たちが飛び出していく。
『なっ、ま、待て!三体は卑怯――』
獅子達は無慈悲に甘井に飛びかかり、脚を腕を首筋にかぶりつく。
『いぎゃああぁっ!!い゛っ、い゛だ い゛!あ゛ああああぁぁっ!!!!』
人間と同じ色の血をまき散らしながら、甘井の体はあっという間にバラバラになっていった。
「…………なんだよ、そんなに強く、なかったじゃ、ねえか…………。」
恋はそう言いながら、崩れるように膝をついた。
来た道を覆っていた糸の群れがほどけ、地面に落ちていく。それと同時に、天井から吊り下げられていた方の恋も解放された。
彼は受け身も取らずに頭から地面に落下する。
そして次の瞬間、そこには別の少年の姿があった。
「……………………えっと。大丈夫?」
透が抑揚のない声で尋ねる。
「お前…………そんなのが使えるなら、先に、言えよ…………。」
「ごめん、聞かれなかったから……。」
「チッ…………取り合えず、助けてくれた事には、感謝、して――」
――恋はその場に倒れ込んだ。
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