「獅子尾恋」
「っていう訳で!霊行証が無いお前を、同じ学校に通ってる俺が保護することになったって訳だ。運が良かったな、ふん!」
金髪の少年——
鬼のような面の下から現れたその顔は、いたって普通の小学生だ。
鼻にテーピングをしており、何本かの永久歯はまだ短い。しかし髪の色だけは金髪に赤のメッシュと、小学生に似つかわしくないありさまだった。
「……えっと。それで、僕はどうすればいいの?霊行証、無いと駄目なんでしょ?」
ベッドに上体を起こして座っているもう一人の少年は、名前を
……強いて言うなら、真っ黒で、虹彩と瞳孔の区別がつかない瞳が特徴的と言えるか。もう一つ特徴を上げるなら、幼児的な顔立ちだ。見る人によっては可愛らしいとも言えるだろう……その瞳をのぞき込まなければ、だが。
「だーかーら!話聞いて無かったのかよ!霊行証が無いから俺がお前を守るっつってんの!」
「…………それって、ずっと?」
「んな訳ないだろ……!いや、いつまでとか、俺も知らねえけど……。」
恋は言葉を濁す。曰く、彼のような「夢喰い」は組織として活動しているらしく、彼は誰かの命令を受けて働く立場らしい。
「ま、手配書が出てるから、霊行証ならいつか取り返されるだろ……!あーあ、早くしてくんねえかな!俺、今の任務が終わってもお前の護衛とかやだかんな!」
「うん、そうだね。」
早く霊行証に戻ってほしいのは透も同じだ。「夢渡り」としての身分証――それがどういうものか透自身もよくわかっていないが、あれが無いと、少し困る……ような気がする。
「『そうだね』、じゃねえよ!お前のせいだろーが!ったく、人にメイワクかけておいてさっきからなんだよその態度はよぉ!」
「えっ……ああ、ごめんなさい。」
「は……?なんだそれ、ふざけんなよ、ムカつく。反省してねーだろ。」
「…………ごめんなさい。」
徹はこういう、何をして欲しいのかよくわからない叱責には慣れているが、正しく対処できるわけではない。取り敢えず、謝り続ける以外仕方がないのだ。
「はぁ……お前なあ、俺は怒られたから取り敢えず謝っとくってのが一番気に入らねぇんだよ。この意気地なし!文句あるんだったらはっきり言えよ!あぁ!?」
恋は唾を吐き散らしながら透に顔を寄せる。だが、透の頭からやたらと甘ったるい女のような匂いがしたので、自分から少し顔を引いた。
「……………………。」
「……?文句は、ないよ。……あ、恋君はまだ、他に文句ある?」
「っ…………。」
透が一切表情を動かさずにそういうのを聞いて、恋は納得した。
「……な~るほど。前言撤回だ。お前は意気地なしじゃないな。」
そして透の顔面に向かって人差し指を突き出し、判決を言い渡す。
「ずばり、お前は…………バカだ!さっきから話はしてるけど、何も考えてない。だから何も感じないって訳だ。」
「……ちゃんと考えてるよ。」
「そーゆーことじゃない。話は理解してるかもしれねぇけど、そこから何も自分で考えないってことだ!」
「『じぶんで』…………?」
透は首をかしげる。
「あぁ~~だから、なんて言うか、どうしたいとかどうすべきとか……もういい!バカに言っても無駄だ!」
「わかった。」
「ふん、それでいい!」
恋はふんぞり返り、透は彼の口が閉じたことに満足する。
……ところが恋は再び喋り出した。
「——あ、そうだった忘れる所だったぜ!むしろこっちの方が大事な任務じゃねぇか!最近4組の梅原って奴、どうもこっち側に捕らわれてるっぽいんだ。なんか知ってるか?」
「…………梅原って、誰?」
「知らねえか……ほら、ずっと休んでる奴だよ!噂になってるだろ!」
「……知らない。」
「なんで知らねえんだよっ、普段からそんなにぼんやりしてんのか?」
「…………。」
「チッ、まあいい。じゃあこっちの言い方ならどうだ——そいつは、『糸』に絡め取られてる奴だ。」
「…………糸。」
「――見たことあるだろ?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます