美術館:<其の二>

 看板に従って肉のトンネルをくぐっていくと、普通に元の順路に戻れた。


 進んでいくと、脇に『特別展示会~じょなそん・甘井・すぅいとはぁと氏~』と書かれた立て看板が見えてきた。


 とりあえず立ち寄ってみた。


 広いスペースに、台座やガラスケースがまばらに展示されている。


 一番近くには土の山があり、その中に半分開いた棺桶が埋まっていた。


 中にいる二人は、口づけをしながら眠っている。重なり合った唇は腐って溶け合ったまま、時間が止まっていた。


 次に見えたガラスケースのようなものは、よく見ると、お洒落な模様が彫られたジャムの瓶だった。


 中の二人は裸で抱き合っているが、下半身は肉の山に埋まっており、ずぶずぶに混ざり合っている。……いちご味かな?


 また別のガラスケースには、手元にボタンが付いていた。ご丁寧に来場者のサイズに合わせて、違う高さのボタンがいくつかある。


 ケースの中では、大きな口の女の子が男の子の頭をバリバリと食べていた。


 ケースの内側に、血しぶきがこびりつく。


 男の子の体が時折、ビクビクと痙攣する。


 ……………………ボタン、気になる。


 押してみた。


 するとすべてが巻き戻って、男の子の頭は元通りになり、ケースの内側も綺麗になった。


 男の子は何か叫びながらこちらに駆け寄ってきて、ケースをばんばんと叩く。


 後ろから女の子がかじりついて、またケースは血まみれになる。


 もう一回ボタンを押してみた。


 男の子はまた食べられた。


 もう一回。


 もう一回。


 もう一回…………。


 …………結果は何も変わらなかった。


 つまんない。


 次に見たのは、病院で見るような二つのベッドだった。


 男の子に一つ。女の子に一つ。


 並んだ二人の内側の腕から、点滴のように赤い紐が伸びている。その紐は空中に浮かぶ、大きな心臓につながっていた。


 どくん、どくんと音を立てて鼓動している。それに合わせて、二人の心電図も一緒に電子音を奏でる。


 その心臓は近くでよく見ると、細い無数の「糸」を縫い合わせてできていた。天井から心臓を吊り下げているのも、その糸だった。



 …………二人はいつまでも、目覚めない。

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