クロエの反撃

イオの屋敷に遊びに行った翌日、クロエが教室に入ると、全員が一斉にクロエを見た。


普段よりも、皆の視線を痛いほど感じた。


しかし、クロエは昔から目立つことには慣れていた為、どうとも思わず自分の席についた。



最近のクロエは、周囲に睨みを効かせることも、毒を吐くこともなく、またアリオンの婚約者でもなくなっていた為、以前ほど恐がられている存在ではなくなっていた。



同じクラスの、有力貴族の令嬢の一人が、わざと聞こえるような声で周囲の取り巻きたちと話し始めた。


「ほんと、節操がないって嫌よねぇ。」


「アリオン様に付きまとったあげく振られて、今度は純真な男子生徒をたぶらかすなんて!」


「恥ずかしくないのかしら」


クロエにはこれらの女子生徒の声が聞こえていたが、相手にする気もないので無視していた。


完全無視していると、令嬢が席を立ち上がり、クロエの席の前に立って、上から見下ろしながら言った。


「あなたに言ってるのよ、クロエ」


クロエは令嬢をじっと見上げ、黙っていた。


「なんとか言ったらどうなの?」


令嬢にケンカを吹っ掛けられ、クロエはどうしたものかと考えていた。



突然、クロエはバンっと音を立てて立ち上がった。令嬢と取り巻き立ちは、一瞬ビクっとした。


薄く笑いながら、顔を近づけて視線を外さずにゆっくりと言った


「あなたたちこそ、恥ずかしくないの?」


「アリオンにもイオにも、話しかけてもらうことすらできないくせに、立派に嫉妬だけはするのね。あなたたちが、私よりも優れているところがある?何を喚いたって、私にはミジンコが何か騒いでいるようにしか思えないの。ミジンコらしく、静かにしてなさい。」


クロエの美貌で睨まれ、取り巻き立ちはまるで蛇に睨まれた蛙のように、ビクッとして動けなくなった。


ケンカを吹っ掛けた令嬢は、顔を真っ赤にして、走りながら教室を出ていった。



クロエは、基本的に自分が好きな相手にはとことん優しく丁寧に接するが、敵と認識した相手には容赦のないタイプであった。



久しぶりのクロエの悪役令嬢ぶりに、教室内は静まり返ったが、内心『かっこいい。。。』と憧れる生徒も少なくなかった。





いつものように食堂に行き、リナリー、イオ、ラリーと合流した。


今朝の教室でのクロエの悪役ぶりは専門科の生徒にも伝わっていたらしく、会うなり、イオに申し訳なさそうに謝られた。


「クロエ、ごめんな。まさかこんな変な噂立てられると思ってなくて。」


「どうして謝るの?昨日はありがとう。別に、言わせたい人には言わせておけばいいじゃない。それとも、イオはもう私とは帰りたくないの?」


クロエが少し意地悪っぽくいうと、イオは


「そんなわけないだろ。」


と呟いた。


リナリーとラリーは、口々に


「それでこそお嬢様!」

「男前!」


とクロエを称賛した。


クロエは苦笑し、この気のいい3人組がもっと好きになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

婚約破棄された悪役令嬢は、元婚約者を諦めない きなこもち @kinakomochi1212

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ