イオとクロエ2

1時間ほど作品を見せてもらいながら、テオと一緒に遊んだ。


そろそろ帰ろうとした時、ドアがノックされ、

イオの母親が顔を見せた。


黒髪の、背が高いはっきり顔の美人だった。


「初めまして。イオの母親のアデルです。何のおもてなしもできず、ごめんなさいね。この子ったら、こんなに素敵なお嬢さん連れてくるなら、前もって教えてくれたら良かったのに。。。」


「クロエと申します。突然押し掛けてしまい、ご迷惑おかけしました。イオ君の作品を見せていただいて、感動してしまいました。」


アデルはクロエをまじまじと見ると、ほうっとため息をついて


「まぁ、なんてかわいらしい方。イオの最初で最後のチャンスね。。。」


と小さく呟いた。後半の方はクロエには意味が分からなかったが、とりあえず微笑んでおいた。


「バイバーイ!おねえちゃん!また遊ぼうねぇ~」


すっかりクロエに打ち解けてくれたテオは、アデルに抱っこされながら、笑顔でクロエに手を振った。



帰りは、ミドルズ家の馬車で屋敷まで送ってもらうことになった。イオが一緒に馬車に乗って最後まで見送ると言ってくれたが、断った。


「テオ、お兄さんを一人占めしたそうだったわよ。だから早く帰って一緒にいてあげて。また明日、学園で会いましょう。」


クロエが笑ってそう言うと、イオも了承した。


「・・・分かった。クロエ、今日は来てくれてありがとう。」


「こちらこそ。イオのことを少しでも知れて嬉しかったわ。私も仲良し3人組の一員になれそうかしら。」


クロエが冗談っぽく言うと、


「もうクロエは一員だろ」


普段はあまり目を合わせてこないイオが、クロエの目をまっすぐ見てそう言った。


クロエは一瞬ドキッとし、少し照れくさくなった。


リナリーとラリーが、

『近付いてくる女子は、みんなイオを好きになる』

と以前言ったのは、こういうところが所以かとクロエは思った。


2人は軽く手を上げ、また明日といって別れた。馬車が完全に見えなくなるまで、イオが大きく手を振ってくれているのが見えた。


そんなに全力で見送りをしなくてもいいのに、とクロエは苦笑した。


そういえば、今日はアリオンのことも、セリーナのことも考えなかった。


久しぶりに穏やかな気持ちで、クロエは帰路に着いた。





翌日、イオが登校すると、リナリーが待ち構えていた。


「イオ!ちょっと!こっちきて!!」


リナリーは浮き足だった様子で、イオを校舎の脇に引っ張っていった。


「なんだよ!」


「イオ、あんたやるじゃん~!見直したよ!今朝から、イオがクロエと2人っきりで、どこかに連れ立って帰って行ったって話題で持ちきりでさ。」


「はぁ?そんなことが噂になんの?」


イオは、目立つことが嫌いなのに、結果的にいつも目立った行動を取ってしまう不憫なタイプであった。


「それで?どうだった!?」


リナリーは、目をキラキラさせてイオに聞いた。


「どうって何が?」


「だから!クロエと2人っきりだったんでしょ?どんなものが好きかとか、どんなタイプが好きかとか、どこに行きたいかとか、もちろん色んなこと話したんだよね?」


「いや、個人的な話はほとんどしてない。テオも一緒だったし。」


リナリーは呆れたとばかりに天を仰いだ。


「信じらんない!!ミニイオもまさかずっと一緒だったの?どうせ、『遊ぼ!一生のお願い!』とか言ってくっついてきたんでしょ?ダメだよちゃんと預かってもらっとかなきゃ~」


リナリーに言われたことはすべて図星だったが、イオはあまりの言われように腹が立ってきた。


「なんだよ!そういうお前は!?どうだったんだよ?」


イオからそう聞かれると、リナリーはギクッとし、固まってしまった。


「・・・聞かないで。」


「ラリーと2人っきりで、市場で係の買い出しだったんだろ?そっちこそ、進展あったのかよ?」


リナリーはうんざりした顔で言った。


「アイツはもうだめだわ。。。もうやめる!だってさ、市場に、『お揃いで持つと願いが叶う人形』が売ってたのよ。私が、ラリーとお揃いで持ちたいって言ったら、なんて言ったと思う?」


「『リナリー、その人形を使って誰かを呪う気じゃないよね?僕は悪事には加担できないよ。』って言ったのよ!?私をなんだと思ってるの?こんな美女のどこが気に入らないわけ!?」


リナリーが怒り心頭で叫ぶと、イオは飄々と答えた。


「あーーやっぱり、性格じゃない?お前みたいなおとこおんなに好かれるラリーの身にもなってみろよ」


「・・・なんだとっ!!っこの!殴られたい!?」


リナリーは持っていた鞄で、イオの背中をバシバシと叩いた。2人は幼馴染みだったので、このようなケンカは日常茶飯事であった。


リナリーがラリーのことを好きというのは、周知の事実であった。ラリー本人は気づいていないのだが。


2人の低レベルな言い争いはしばらく続いた。



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