30 思い出だけ……ね
そうして向けられる奇怪そうな目!目!目!!
金銀宝石そのものの様な服を着て檻に入っている俺に、一斉に向けられる目。
好意的な目ではないのは分かっていたが、まわるにまわって生まれて初めての大注目が嬉しくなってきた。
「 ……はははっ! 」
突然笑い出した俺を見て、ビクッ────!!と震える周囲の人達。
アイリーン達もいつもなら大爆笑しているはずなのに、今日は青ざめて目線を不自然に逸らしている。
「 イシが嬉しそうで俺も嬉しいよ。
しっかり皆に見てもらおうね。その姿。 」
ニコッ!と、どんどん進化していく笑顔で嬉しそうなヒカリ君。
俺が屈辱に塗れた姿を見せびらかす事で幸せを感じている。
ヒカリ君の嫌がらせは絶好調だ!
流石に今の状況が嫌で嫌で、ギーリギリ!と歯軋りしながらその屈辱に耐えていると、困った様に微笑んでいた王様がそのまま淡々と挨拶を始めた。
「 皆の者、よく集まってくれた。
此度は神に選ばれし勇者殿が見事、悪きモンスター共を全て倒し、世界に平和が訪れた。
そしてその証として、これより神が勇者殿に神の杯である【 全能杯 】を授けるであろう。
勇者殿にはこの世界を生きる者の代表としてお礼申し上げる。
そして勇者殿を支えし戦士、アイリーン殿、メルク殿、ルーン殿、キュア殿…………
誠に大義であった。 」
そこで集まっている人達全員が、ヒカリ君とアイリーン達に頭を下げた。
それを見た青ざめていたアイリーン達は完全復活し、ふふ〜ん!と偉そうに顎をあげる。
呆然としたまま一応パチパチと拍手を送ると、その後王様はチラチラッと俺へ視線を贈り、ウォッホン!と咳払いをした。
「 あ〜……その……異世界より現れしイシ殿よ……。
此度は本当に申し訳なかった……。
居心地も悪かっただろうに、この世界のために尽力してくれて感謝申し上げる。
これは心ばかりのお礼だ。
どうか受け取って欲しい。 」
王様が気まずそうにそう言うと、神官のシンさんが車輪がついた台をカラカラと引っ張ってきてくれて、俺の前で止まる。
その上には金貨や宝石などなど、沢山の金目のものが黄金色の大層な箱に乗っていた。
「 ど……どうぞ……?イシ様。 」
ビクビク……
オドオド……
ヒカリ君の方をチラチラと見ながら、檻の方へそれを近づけてくれるシンさん。
一応王様やシンさんに気にかけてもらえた事が嬉しくて、ついウルッとしながらその金貨に手を伸ばそうとしたが────……
その手はヒカリ君に掴まれて檻の中に戻される。
「 イシにはこんなものは必要ないでしょ?
これから欲しければ言えばいい。
────ね? 」
檻の外から微笑むヒカリ君は……鬼!悪魔!
” 報酬など与えるものか! ”
” さっさと帰れ! ”
───────撃沈!!
そのままへたりっ……と力なく横たわって震える俺を見て、ご機嫌なヒカリ君。
そんな眩い笑みを浮かべるヒカリ君を見て俺は全てを悟った。
まぁ、うんうん。楽しい思い出をどうもありがとう。
特に最後のお空のお散歩。
欲をかかずにその思い出だけ持って帰ろう。
仏の心境でヒカリ君の笑顔をボンヤリ見つめていたのだが、突然ヒカル君の顔からストンッと笑顔が消え、ハッ!とした様子で空を見上げる。
おお??何だ?何だ?
突然のその様子に驚いていると、突然空が暗くなり………………俺は一瞬で消えてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます