26 お許ししますとも
そうして皆んなでご飯を食べて、俺が煮出したお茶を飲んでいる間もヒカリ君は、あれは何?これは何?と質問しては答えてあげると嬉しそう。
それを憎々しげに睨みつけてくるアイリーン達からはギシギシと大音量の歯軋りの音が。
「 ・・ただのおじさん 」
「 ・・甲斐性無しおじさん 」
「 しょぼくれおっさん。 」
「 最弱中年さん 」
「 ・・お前らなぁ〜・・ 」
アイリーン達から悪口の嵐を受けながら、存在が目に入ってない様子で覆い被さってくるヒカリ君をさりげなく離す。
何か・・俺が寝たきりになってからやたら距離が近いんだよな〜。
もう少しだけパーソナルスペースが欲しい。
そんなささやかな願いによって親指分くらいスペースを開けたのだが、拒否された!?と勘違いしたのか、ムッとしたまま余計に近づいてくる。
更に腰までガッチリ掴まれてはそれ以上離す事もできず・・仕方ないので諦めた。
そしてまた新たに尋ねられる質問に丁寧に答えていると、アイリーン達の目は点に。
そんな少々微妙な空気の中、そのままその日はヒカリ君の質問に答え続けて一日を終えてしまった。
暗くなった中で歩き回るのは勿論危険であるため、そのままその場にテントを張りいつも通り夜を明かす事に。
そして手早く女子様と勇者様となっていたテントを張ってやると、アイリーン達はジロジロと何か言いたげな目を向けたまま女性用テントへ渋々入り、俺は条件反射の様に焚き火の場所に行こうとしたのだが・・・
ヒカリ君が、後ろからガバッ!と腰に両手を回し、そのまま自分の方へ俺を引き寄せたためその歩みは止められた。
「 イシ、どこに行くの?
テントはこっちでしょ。 」
「 あ、うん。自分の場所に・・・って、そっか。
俺も今日からテントで寝ていいんだっけ? 」
そよ〜と吹きつけるちょっと冷たい風を感じ、テントの中で寝れる事を素直に喜んだ。
すると、そんな俺の様子を見たヒカリ君は、眉をへにょ・・と下に下げる。
「 イシ・・今までごめんね。
俺、酷い事ばかりしてた。
何でもするから俺から離れないで。
欲しいものは何でもあげるし、気に入らないヤツがいたら直ぐに消してあげるから。
・・
アレ、消す? 」
ヒカリ君がチラッと隣の女子用テントに視線を向けると、ビクビクッ!!とテントが大きく揺れた気がした。
いやいや!非力な俺が必死に建てたテント消さないで〜!せっかくのぬくぬく空間なんだからさ!
それは本気で困るので、うおおおお〜!!と後頭部をヒカリ君の逞しい胸筋部にゴリゴリと擦り付け拒否の意を示す。
「 頼むから止めてくれよ!
消すのは嫌だから、とりあえずとっといてくれないかな?
それに謝ってくれてありがとう。じゃあ、許す、許す〜。
これからよろしく。 」
軽い調子でそう返すと、ヒカリ君からパァッ!!と嬉しそうな気配が漂ってきた。
正直一回りくらい下の子たちの嫌がらせなど、ちょっと猫に引っ掻かれた程度。
ちなみに自分より年上だと、ちょっと凶暴性の強い更年期障害を疑ってしまうため、怒りより心配が先に立つ。
本当に気にしてないのにヒカリ君はこうして謝ってくれて、その気持ちが凄く嬉しいと思った。
そのためニコニコと笑っていると、そのまま俺はヒョイッと抱っこされてしまい、おや??と思ったら、テントの中へ。
そこにガラス工芸品を扱う様な丁寧な手つきで、布団の上に乗せられる。
「 イシは本当に優しいね。
許してくれてありがとう。
・・・これからよろしくね。 」
その時の顔は本当に幸せそうで、口角を上げただけの笑みからまた成長したのだと知る。
ヒカリ君はどんどん変わっていくなぁ・・
その変化のスピードに恐れおののいていると、そのままヒカリ君は横たわった俺に正面から抱きつき上にもう一つの毛布をフワっと乗せてくれた。
そのぬくもりにぬくぬくとしていたのだが、少し経ってハッ!!と気づく。
えっ、一個の布団で一緒に寝るの??
てっきりこのテントに敷かれた最高級のおふとんはヒカリ君用。
そして今まで使用していた、王宮から支給されたせんべいより薄い駄菓子のソースせんべいの様な寝袋は俺専用で、てっきり別々に眠ると思っていたのに・・??
どうしようか・・と考えたのだが、どうにもぬくい毛布とヒカリ君の身体にウトウトしてしまい、そのままぐっすり眠ってしまった。
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