私たちは箱の中で暮らしている
凪風ゆられ
第話
生まれた場所は、白い病院の一室だった。
陣痛室だか分娩室だか名前があった気がする。
次に私が訪れた場所は、赤い屋根の家だった。
さすがに幼少期のことなんて思い出せないけど、当時の私にとってはそこが世界の全てだったのはなんとなく覚えている。
そこから二~三年経つと、幼稚園に通うことになった。
家よりも広く、人もたくさんいる。初めての体験が怖くて泣いたりもした。
七歳になる年、小学校に通い始めた。
今までいた場所よりも数倍広く、他人との関係も気にするようになったと記憶している。
小学校を卒業した後、中学に進学した。
思春期のせいか異性のことを考えるようになったと思う。
世界は意外と狭いんだなと感じた。
公立に落ちて、私立の高校に行くことになった。
周りはまったく知らない人だらけで、友達を作るのに苦労した。
行ったことのない場所に行く機会が増えた気がする。
ギリギリ第一志望大学に受かった。
受験から解放された私は、ほぼ毎日のように遊んだ。
周囲の人たちに合わせる中、自分が四角くなるのを日々感じていった。
中小企業の事務職に就いた。
器用でない私は人一倍苦労した。
人間関係が今までと比にならないほど、面倒だと感じる。
退職した後は、ぼうっとした日々を過ごすようになった。
これまでの思い出を、まるでページを捲るように脳裏に浮かべる日々。
ある日、私たちは社会という名の『箱』に押し込まれているのだと考えるようになった。
好きだったり、嫌いだったりする人たちと形はどうあれ様々な種類の『箱』に入れられる。
病院。小学校。高校。会社。社会。世界。
終わりが来れば次の箱へと移し替えられる。
これから私が送られるであろう棺桶すら『箱』である。
焼かれた骨の行く先もまた箱である。
広大な自由を見る機会もなく、出ていくことも許されない。
なんて狭い世界なんだ。
生まれても、死んでも、どんな瞬間であっても囚われ続ける。
私たちは一生『箱』の中で暮らしていくんだ。
私たちは箱の中で暮らしている 凪風ゆられ @yugara24
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます