涙
菅原 高知
人生
泣き声で始まった人生でした。
その後も、私の人生は泣き声に溢れていました。
お腹が空いては泣き、眠くなれば泣き、オムツがぬれれば泣いた。
母親が側にいなければ泣き、知らない場所・人がいれば泣いた。
友達と離れ離れになり泣いた。
勉強についていけなくて泣いた。
給食を食べるのが遅くて泣いた。
ペットの犬が死んで泣いた。
また、友達と離れ離れになり泣いた。
試合に負けて泣いた。
ふられて泣いた。
受験に合格して泣いた。
初めて恋人ができて泣いた。
映画を見て、小説を、漫画を読んで泣いた。
大会で優勝して泣いた。
受験に失敗して泣き、合格してまた泣いた。
生涯の友と出会い笑いながら泣いた。
面接に受かって泣いた。
仕事が出来なくて、怒られて、悔しくて、泣いた。
結婚式で泣いた。
子供が生まれて泣いた。
おじいちゃんが、おばあちゃんが、両親が死んで泣いた。
子供が成人式を迎えて泣いた。
子供が結婚して泣いた。
孫が生まれて、嬉し泣きした。
そして、今私はベッドの上にいる。
たくさんの管で機械に繋がれて。もうカラダはほとんど動かない。
ベッド脇にいる妻や子供、孫たちが泣いている。
私の代わりに泣いている。
ああ、どうか泣かないで。私の死を悲しまないで。
確かに私の人生は涙で溢れていた。
――けれど、この最後の瞬間に思い起こされるのは、楽しかった記憶ばかりだった。
無償の愛を注いてくれた両親と笑いあった日々。
友達や恋人と笑いあった日々。
妻や、子供、孫たちと何気ない日常で笑いあった日々。
私はいろいろな人を愛し、愛されていた。
何と幸福な人生を歩んで来たのだろう。
家族が悲しむ様子を見ながら、私の口は微笑みの形をとる。
――そして、やはり涙を一筋流すのだった。
涙 菅原 高知 @inging20230930
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