箱の中身、感情のありか
小槻みしろ/白崎ぼたん
箱の中身、感情のありか
私と姉は同じ部屋だった。
おもちゃ箱はふたつ。姉のおもちゃを、私は使ってはいけないからだ。
私は部屋を出ていくとき、いつも私の箱に、おもちゃをしまう。そして部屋に戻ってきたときに、まっさきに姉の箱を探した。
姉は私がいないとき、私のおもちゃで遊び、自分の箱にしまうからだ。
「盗ってないし! てゆーか私のおもちゃ箱、触んないでよ!」
姉に文句を言うと、いつも逆ギレされて、母に告げ口された。
母は話を聞かず、私に「駄目よ」と言った。私が抗議すると、
「心がせまいのね。仲良く遊びなさい」
と言った。私は、姉のおもちゃを使ったことはない。一度使ったら、姉は泣きわめき、母に酷く叱られた。
「お姉ちゃんは使うのに」
「仕返ししようとしたの? 意地悪ね」
姉は、私のおもちゃを枕において、ジャマなときだけ、自分の箱にいれるようになった。
「あんたが大事にしないから、使ってくれてるのよ」
「お前が意地悪だから、姉もストレスがたまるのよ」
母はいつも、姉を叱らなかった。
私は宝物を箱にいれるのはやめた。箱に入らないものを、宝物にした。
それは友達とか思い出だった。
夜、ときどき姉は、箱の中をじっと見つめている。
欲しいものは箱を見てても手に入らないよ。
私はねたふりをしながら思った。
高校生になって、私達は引っ越しをした。
荷造りをしていると、姉は私に、自分の箱を差し出してきた。
「これあんたのでしょ」
「もう私のじゃないし」
「そうやって私にいつも押し付けるよね。ちゃんとしてよ」
そう言って、箱の中身を私の膝にひっくり返す。荷造りが終わったと、部屋を出ていった。
この春、姉は初めての彼氏ができた。私より早く彼氏ができたことは、姉の自尊心を満たしたらしい。
私は私のもので、姉のものだったものを見おろす。
姉は幼い頃の箱の中身を、すべてを過去の遺物にするらしい。そしてそれは、私にも出来た。
けれど、私は自分のダンボール箱に、それらをそっとしまったのだった。
箱の中身、感情のありか 小槻みしろ/白崎ぼたん @tsuki_towa
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