症例2-アイスクリーム

下記の文章は先月自殺した世界的デザイナー宗和そうわフランさんの日記をまとめたものです。







六月一日 今日も私は美しく、素晴らしいデザイナーだったわ!




実は今日あのサンプルが届いたの……そう、私の大好きなキャサリンズ・キャッツ・キャップとのコラボ商品の!




最高の出来栄えだったわ……




特に私が何度もデザインし直したキャシーちゃんのショルダーバッグなんて、みんな私が持ちたい、次は私、ずるい私もって取り合いになったのよ?




このまま問題が起きなければ六月の下旬に売り出すことが決まってるから、今からしっかり宣伝しておかないとね。




ああ、完成が待ち遠しいわ!










六月二日 今日も私が美しきデザイナーなのは変わらないけど、一つ変わったことがあったわ。




私、他の子何人かと新作のラフ画を描いていたんだけど、私と別の所で作業していたリムが突然話があるって言ってきたの。




前から突発的で投げやりなコミュニケーションをとる子とは思ってたけど、社長である私を仕事中に、しかも私用で呼びつけるだなんてびっくりしちゃったわ。





それでね、休憩の時になって会議室で二人きりになるとその子、深刻そうな顔してこう言ったの。








「甘味病になったからフランさんに食べてもらいたい」って!








もう私、それに驚きすぎて外に聞こえるくらい大きな声で叫んじゃった。




とりあえず話を聞いてみたわ。この子、仕事の時はもっと喋れるのに、緊張してたのかすっごいしどろもどろで理解に時間がかかったわね……。




要するに「私のことが本当に好きで食べられたいと強く思っている」「私以外に食べられるくらいなら今すぐ死ぬ」ってことだったわ。




私、相手を自分の思い通りにするために自分を傷つける子は嫌いよって伝えたら、あの子ってば、職場なのに子供みたいに泣きながら謝ってきたのよ?




……こんな不安的な子、ほっとけないじゃない?だから…………




連れて帰ってきちゃった。

実はさっきから隣で熱心に私のこと見つめてるわ。さっさと寝なさいって言ったのに……

いつまで起きてるつもりかしら。








今日、朝、起きたらね、リムの姿が見えなくて、心配して、家中をリムの名前を呼びながら探してみたの。




寝室も、リビングも、トイレも、お風呂も、玄関も、本当にどこ探しても、いなくって。




勝手に帰ったのかも、って思って、玄関に靴があったのは見なかったふりをして、朝ごはんの用意をしに台所に行ったら、くぐもった声が聞こえてきたの。




「フランさーん」




驚いて辺りを見回しても、誰もいなくて。

でも声は聞こえ続けて、怖くなったけど、確かめないとって思って、




声のする方に近づいていくと







冷凍庫の目の前に、きちゃって。







「そこにいるの……?」







「いますよー」







恐る恐る開けてみたら、









リムが、冷凍室の中に詰まってた。









中に食材が詰まってたから、頭と片腕が重みで変な形になってて、顔の半分はぺしゃんこに潰れてて、私の方を見た途端、片目がこぼれ落ちて、




私、自分で叫ぶのかなって思ったけど、意外と叫ばずに質問したの。

「脚とか、どうしたの」

「あー入んなかったんで、上です」





冷蔵室の中には白色とピンク色の混ざった液体が、滴って、ちゃぷちゃぷ言ってた。リムの頭にそれを見せたら




それが左腕だって、




両脚だって、




胴体だって、言われて……。





それで、私、もう、









この子を食べるしかないって思ったの。









だって、しょうがないじゃない、甘味病ってあくまで、そういう味がするようになるってだけで、体の性質まで変わるなんて知らなかったのよ




溶けたあの子の手足を今更すくい集めて冷凍したところで元には戻らないでしょ?




だから、だから私、せめてあの子のお願い叶えてあげたいって思ったのよ。




ねえ仕方ないでしょ、だってこれは事故みたいなものじゃない?あの子も気にしてなさそうだったし平気よ何も間違ってないわ一つも間違ってない冷蔵庫の前で立ちすくんでいる時も私が食べてくれるかどうかだけを気にしてたものあの子その事しか考えてないからどうでも良いのよ自分の切り離した部位なんてあでも切り離したんじゃなくて壁に叩きつけて外したんだってバラバラになりながら別々の所に自分を押し込めるなんて器用な子ねすごいわそうよ仕事でもよく頼ってたわあの子仕事をすぐ覚えるし初めてのことでも大体何でもできるしデザインのセンスも抜群で将来きっと私と肩を並べるデザイナーになるって思っ何も間違ってない私は何も間違ってないから私を好きだ憧れだ貴方にしか頼まない貴方以外には食べてほしくないって言ってくれた子の気持ち受け取ってあげて私とっても優しいじゃないそう食べて欲しいって言われたから食べてあげたのよそれの何がおかしいの間違ってるのそんな訳無いわ間違ってない全部あの子のためだから















嘘、食べちゃえばバレないって思った。











好きなブランドとのコラボ商品が出るの、見れると思った。










まだデザイナー続けれると思った。














私どうすれば良かったの





















最後の日記は六月三日に書かれたものだと推定されています。

宗和フランさん(本名 不破和子)の遺体は無断欠勤したことを心配した社員により発見されました。死因は睡眠薬の過剰摂取。発見時に口元に溶けたアイスが付着していた事とこの日記の内容から、一度甘味病のリムさん(本名 愛溶リム)の体が溶けたのでそれを隠すため食べてしまった。

そしてそれを文章化する事で正当化しようとしましたが、書いてる途中で自身の行いを悔いてその日の夜に自殺したと見受けられます。




本当は今日も0時にあげたかったのですが、平日は忙しいので難しいかもしれません。

あと三つ、調べた症例を取り上げてから私なりに甘味病の原因を考察だけを書き記そうと思います。

突然失礼しました。それではまた明日。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る