第49話 これは友達の女の子の話なんですけど
登場人物
来栖 七海のクラスの担任教師(♀)
七海 悩める中学二年生
彼は頬杖を付いて窓の外をぼんやりと眺めています。
その背中を見ている私の胸にとある感情が湧き上がりました。
――尊い。
この年頃特有の不安定さ、その中に垣間見える危うさと脆さ。
海水と淡水の交わる境界線に彼らはいる。
それは純粋が現実に染まっていく儚い瞬間……。
見ているだけで胸がキュンと締め付けられます。
そういえば――、と私は思い出しました。
確か彼はお腹が痛くて早退したはず、なのになぜ教室にいるのでしょう。
黄昏るあの感じ、何か悩み事があるのでしょうか。そっとしてあげた方がいいのでしょうか。
答えを出す前に私は教室の戸を開けました。ガラリという音に窓の外を見ていた七海くんが振り返ります。
「どうしたの? もうみんな帰ったわよ」
「来栖先生……」
「もしかして、なにか悩みでもあるのかしら?」
「いや、えっと、その……」
視線を泳がせる彼の表情に私の直感が告げます。
これは何かある、と。
まさかイジメられてるとか? でも生徒たちにそんな素振りは見受けられない。誰に対しても優しい七海くんに限ってイジめられるなんて想像できません。
でも事件は教師の目の届かないところで起こるものです。
「悩みというか……」
「なんでもいいから話してみない? 話すと楽になるわよ」
「そうかな……。うーん、でもなぁ……」
決めかねる彼の前の席に私は座りました。
「そうよ、言っちゃいなさい」と微笑みかけると、彼は決心して小さくうなずきました。
「これは友達の女の子の話なんですけど」
あ、この話のはじめ方は……きっと七海くんの話ね。自分を女の子に例えるなんて、設定を誤魔化して隠したいに違いないわ。
「うん、それで?」
「告白されたんです」
「へぇ、青春って感じでいいじゃない」
あらあら、七海くんが告白されたんだ。
「でも相手が同性なんです」
……ほわっと?
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