第44話 夏ボケか

登場人物

 和泉 見た目は俺様系イケメン

 七海 中性的な顔立ちの少年





 な、なんであいつ女装して登校してんだよ……。

 クラスの誰もがそう思ったはずだ。


 誰もが頭の上にクエスチョンマークを浮かばせる最中、すぐさま席から立ち上がった俺は七海に駆け寄り、


「おい七海、ちょっとこっちに来い」


 ぼんやりする七海の手を引っ張り教室を出た。


「お前、何やってんだよ」


「なにって? 登校日だから学校に来ただけだろ?」


 七海は力なくへらりと笑う。寝不足なのか目の下に濃いクマができていた。


「違う、そうじゃなくてその格好だ」


 俺に指摘されて自分の姿を見た七海は首を捻る。


「あ……、あれ? なんだこれ……。はは、最近女装することが多かったからかな? 夏バテならぬ夏ボケか……」


「そんなこと言ってないで早く着替えてこい、俺のジャージ貸してやるから」


「ああ、うん……そうだな。トイレで着替えてくる……」


「大丈夫か? 疲れてるなら今日はもう帰れ、先生には具合が悪くなって帰ったって伝えておく」


「……そうだな。そうするわ、んじゃよろしく」


 踵を返してそのまま帰ろうとする七海を引き留め、廊下のロッカーからジャージを取り出して七海に押し付ける。

 ぼんやりふわふわしながらジャージを受け取ると、七海はウィッグを外してトイレに入っていった。


「和泉くん、なにしてるの?」


 不意に背後から声を掛けられて肩が跳ね上げる。俺が焦って振り返ると、そこには担任の来栖先生が立っていた。


「ホームルームを始めるわよ。ところで、いま女の子がトイレに入って行かなかった?」


「女の子? 見間違いじゃないですか? トイレに行ったのは七海です。お腹の調子が悪いから落ち着いたら保健室に行くって言っていました」


「そう、冷たい物を食べ過ぎたのかしら?」


 来栖先生はクスクスと笑い、教室の戸を開けて「さあ、和泉くんは教室に入って」と促した。


 俺はざわつく教室に戻り、自席に着く。





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