第42話 夏が動き出す

登場人物

 七海 中学二年生、女装すると美少女に変身

 氏家 七海に告白した美少女




「女の子が好きなわたしって変なのかな? ねぇ、七海……わたしのこと、嫌い?」


 潤んだ氏家さんの瞳に動揺するオレの顔が映っている。


「いや、そういう訳じゃ……ないんだけどさ」


「嫌いじゃないなら、わたしと付き合って……お願い……わたし、七海のそばにいたいよ」


「そう言われましても……」


 彼女が好きなのは女の七海であって男の七海ではない。


「つらいの……」


「つらい?」


「七海と会った日から七海のことで頭がいっぱいになの。誰にも渡したくない、誰かに取られるなんて嫌、七海が誰かの彼女になるなんて許せない。ひどい独占欲で、醜くてウザくて、そんな自分が本当に嫌になる。だけどやっぱり好き、もう解放されたくて想いを伝えた。でも拒絶されたくない……。こんな想い、この想い、ねぇ、わたし、どうしたらいいの? 毎日会いたいよ、声が聞きたいよ、触れていたいよ……。おかしくなるくらい七海のことが、好きなの……」


 氏家さんは涙目になっている。今にも溢れ落ちそうだ。


 彼女は本気が痛いほど伝わってくる。いくらオレが鈍感野郎でもそれぐらいは分かる。


 彼女がどれだけの覚悟を持ってここに来たのか、どれだけの勇気を振り絞って告白したのか、彼女の想いをないがしろにしてはいけない。


 適当な理由を付けて誤魔化したり、はぐらかしたりはできない。


 けれど、オレには秘密がある。それを隠したまま告白を受けるなんてできない。


「しばらく……考えさせてください」


 今、オレが彼女に言ってあげられる言葉は、これだけだった。




 ――そして、オレと彼女と和泉、三人の夏が動き出す。



______________


 ここで第三章は終わりです。

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