第41話 その手は微かに震えていた

登場人物

 七海 ネットでワンピースを衝動買い

 氏家 七海に告白した美少女




 オレと付き合う? 今そう言ったのか?

 

 でも氏家さんはオレと和泉が恋人同士だと思っているはずだ。 

 

 それじゃあ二股になっちまう――って問題はそれだけじゃない。彼女は女の子で、オレは女の子になっている訳で、女の子が女の子に告白してきたということだ。

 なんで? どうして?


「それはつまり……恋人になるってこと?」


 こくりと氏家さんはうなずいた。


「うん、そう……、恋人として付き合うってこと。わたし、七海の彼女になりたい」


「で、でもさ……アタシ、いちおう彼氏がいるんだけど……」


「うん……そのことなんだけどね、和泉くんに教えてもらった……」


「な、なにを?」


 ――まさか女装していることをか!?


 心臓がドキンと跳ね上がり、嫌な汗が背中を伝う。

 

「……わたし、初めて七海と会ったときに、和泉くんの容姿しか見ていなかったことに気付いて……、それを七海が気付かせてくれて……。だから和泉くんに謝ったの……七海と初めて会った日から少し経ってだけど。『ホントは好きじゃないのに、付き合おうとしてごめんなさい』って」


 それもすごいな……、言われた方も結構キツいと思うのだが……。


「そしたら和泉くんも謝ってきてね……。七海には告白を断るために彼女のフリをしてもらっていたんだって、教えてくれたの……。だからね……七海は彼氏いないでしょ? それなら私と……付き合ってよ……」


 氏家さんの潤んだ瞳がオレを捉えて離さない。

 それは恋する乙女の瞳だった。その眼差しから逃げるようにオレは視線を逸らしてしまう。


「で、でも、アタシたち女同士だよ?(ホントは男だけど)」


 ぐっと彼女が顔を近づけてきた。密着した体から彼女の熱が伝わってくる。


「それでも構わない。そんなの関係ないって思えるくらいに……わたし、七海のことが好き」


 オレを真っ直ぐに見つめる彼女の瞳と、フレアスカートを握りしめるその手は微かに震えていた。


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