第40話 湧き上がる罪悪感

 登場人物

 七海 中性的な顔立ちの少年、ほとんど女子

 氏家 和泉に告白した美少女




 氏家さんと仲良くなるに連れて困ったこともある。

 やたらとくっついてくるのだ。

 女子同士のスキンシップとはこんなにも接近するものなのか、男子校に通うオレには驚きの連続だった。


 すぐに手をつなぐし腕を組む。体を寄せてくる。胸があたっているのを感じるくらい押し付けてくる。


 気にならない訳がない。

 ましてや氏家さんは美少女だ。

 まつ毛が長くて顔が小さくて、肌が白くて柔らかくて、髪もサラサラでスタイルも良い。

 グラビアやテレビで観るアイドルと比べても見劣りしない彼女と一緒にいると健全な男の子であるオレの男子的な部分が自己主張しそうになる。


 その度に、オレはアニキの顔を思い出して鎮めている。


 湧き上がる罪悪感。

 

 いい加減に本当のことを言わなければいけない気がする。

 だけど、もう引き返せないところまで来てしまっている。

 女友達だと思っていた人が実は男だったなんて知れば当然、彼女は怒るだろう。

 

 オレを軽蔑するはずだ。

 きっともう一緒に出掛けることはなくなる。会うこともなくなる。


 もしそうなったら、オレは――。



 その日の帰り道だった。

 バスターミナルでバスを待っていると、ベンチに座る氏家さんが唐突にこんなことを口にした。


「好き……」


 スキ? 隙? すき? 数寄? 


「うん?」とオレは首をかしげて聞き返した。


「わたし、七海のことが、好き……」


 オレのことが好き? ……なんですと!?


「え? それは友達としてだよね? ア、アタシも好きだよ、氏家さんのこと」


 氏家さんはかぶりを振った。


「そうじゃなくて……、一緒にいたい、だから付き合いたいの……七海と……」


「はへ?」


 このときのオレは彼女の言っている意味が分からず、すごくマヌケな顔をしていたはずだ。




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