第35話 半端な気持ち

登場人物

 和泉 見た目は俺様系イケメン

 七海 中性的な顔立ちの少年

 七海の兄 七海のお兄さん、弟想いの真面目な人




 七海の家――。


 玄関で待ち構える俺の前に七海の兄貴がやってきた。 

 こくりと頷いて合図を出すと七海は兄と入れ替わるように部屋に戻っていった。


「お前はあのときの……」


 そう呟いた七海の兄貴の視線は、まるで俺のことを値踏みするかのようだ。

 駅ビルで見られていたことは七海から聞いている。彼の目に俺はどう写っているのだろう。しかし今はそんなことを考えている場合じゃない。


 初対面だろうがなんだろうが、このバカ兄貴にガツンと言ってやるんだ。


「お兄さん、七海のことで話があります」


 眉間にグッと力を込めてそう切り出すと、七海の兄は俺から視線を外して腕を組んだ。


「……両親の前にまず俺に? 確かに、この件は繊細で一筋縄ではいかない。地盤を固めるために周囲から攻めていく作戦か?」


 意味不明な独り言を呟いた後、彼は顔を上げる。


「わかった。だが立って話すことではない。あがれ、リビングで二人だけでゆっくり話そうじゃないか」


 俺の喉がごくりと鳴る。

 

 彼はたった一言で俺がここに来た理由を察したのだ。さすが七海の兄貴だけあって頭の回転は速い。確かに、これは一筋縄ではいきそうにない……。


 俺は頷き、靴を脱いだ。

 七海の兄貴の後をついていき、リビングのテーブルに向かい合って座る。七海本人は兄に自室で待機するよう命じられてここにはいない。


「お兄さん、お願いがあります! これ以上あいつを――」


 意を決して声を上げた俺に対して、彼は手のひらを向けて「待て」と遮った。


「まず、お前の話を聞く前に確認しておきたいことがある」


「な、なんですか?」


「あいつは俺のたった一人の弟だ。幸せになってほしいと思っている」


「は、はあ……」


「お前はどこまで本気なんだ? 半端な気持ちで弟を傷付けるぐらいなら、いますぐ手を引いてくれ」


 彼の口から出たセリフは、全くもって俺の予想外だった。


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