第34話 手を掴む

登場人物

 和泉 見た目は俺様系イケメン

 七海 中性的な顔立ちの少年





 彼女の顔を見た瞬間、俺の心臓が跳ね上がる。

 

 出会えたことに対する喜び、そして予想外の出来事による緊張。さらになぜ七海はあんな格好をしているのだという疑問。

 すべてがい交ぜになった。


 声を掛けるべきか迷った。

 声を掛けるべきか迷っていた、けれど俺は七海のその目に浮かぶ涙を見た瞬間、居ても立っても居られなくなって歩み寄っていた。


「……こんなところで何やってんだ? 七海」


 ハッと顔を上げた七海は、


「い、和泉……」


 咄嗟に濡れた頬を拭った。

 それが当たり前のように、俺は七海の隣に腰を降ろす。


「変なところ見られちゃったな、あはは……」


 微苦笑を浮かべる七海に、俺は首を振っていた。


「いいんだ、俺でよかったら話を聞くから。なにか……、嫌なことでもあったのか?」


「……」

 

 しばらく握りしめた自分の手を見つめていた七海だったが、声を震わせてポツリポツリとこれまでの経緯を語り始めた。


 実の兄から嫌がらせを受けていること、無理やり女装させられていること、写真に撮られて脅迫されていることをを知った俺の胸に、なんともいえない苛立つと怒りが込み上げてきた。


 はっきり言ってしまえば俺も七海の兄貴と同じなのかもしれない。それでも、そうだとしても七海を救ってあげられるのは俺だけだと思った。


「七海、いくぞ」

 俺はベンチから立ち上がる。


「どこに?」

 七海は小首を傾げ、ぱちくりと目を瞬かせた。


「俺がお前の兄貴にガツンと言ってやる!」


 俺は浴衣姿の七海の手を掴んで歩き出す。


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