第33話 下心とウォーキングデッド

登場人物

 和泉 見た目は俺様系イケメン

 七海 中性的な顔立ちの少年





 夏休みが始まってから一週間が経ち、8月になった。


 俺は基本的に習い事と家を往復する毎日を繰り返していた。それ以外の時間は日が暮れるまで街をぶらついている。


 なんの意味もなく街を彷徨っている訳じゃない。


 愚かにも七海と街でバッタリ会える偶然を期待しているのだ。

 あいつの行きそうな場所をさながらウォーキングデッドの如く徘徊している。


 会いたいのなら普通に遊びに誘えば済む話だけど、どこか後ろめたさを感じてしまう。


 だって俺が本当に会いたいのは女装した七海なのだから――。


 あらためて友達として最低だなと思う。

 それでも、期待してしまう。

 奇跡が起こって女装した七海に会えることを願っている。

 

 だから街を歩く。

 偶然なら罪悪感に苛まれず七海と接することができるから。


 一日中、偶然を期待して歩き続ける。


 だけど都合よく幸運は訪れるものではない。

 今日もいつもの様に日が暮れだした。


「あーあ……、バカみたいだ。一体なにやってるんだろうな俺は……」


 空を見上げて額の汗を拭き、ひとり呟く。


 ふと、視線を落とした先の公園のベンチに女の子が座っていた。

 夏祭りでもないのに浴衣を着ている。足元はスニーカーだ。


 紫陽花柄の浴衣を着る少女の、その横顔には見覚えがあった。


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