第31話 紫陽花柄の浴衣

登場人物

 七海 中高一貫の男子中等部に通う中二。何かに目覚めそうになる。

 学ランの男 ちょっと不良っぽい感じの少年




「兄貴のバカ野郎!!」

 女装したままオレは家を飛び出した。


 秘密がバレて以来、アニキは日替わりランチの如くどこからか新しい女物の洋服を入手してきてはオレに女装を強要してきている。

 その度に写真を撮って恥辱に耐えるオレの顔を肴にコーラを飲むのだ。


 そんな日々が続き、ついに堪忍袋の緒が切れてしまう。オレは感情に任せて紫陽花柄の浴衣を着たまま外に飛び出した。


 どこで覚えたのか兄貴は浴衣の着付けを完璧にマスターしていた。

 そこまでしてオレに嫌がらせしたかったのか……。オレたち兄弟の仲はどちらかと言えばドライだった。ここまで執拗に絡んできたのは今回が初めてだ。

 一体アニキに何があったのかだろうか。

 抵抗も出来ずに言われるがまま着せ替え人形になっていたオレもオレだ。


 悔しさと情けなせで自然と涙が目からあふれ出してきた。


 もうこんな生活まっぴらだ!

 誰かオレを助けてくれ! 


 そう叫びだしそうになったそのときだった。


 どかっ!


 曲がり角で出会い頭に誰かとぶつかったオレは尻餅を付いた。


「あ? どこ見てやがる、気をつけろよ」若い男の声が頭の上から聞こえてきた。


 オレは「あんたこそ、どこ見て歩いてんだ!」と言って男を睨みつける。


 目の前に立っていたのは学ランを着た長身の男だった。

 その顔は忘れもしない。


 便所に落ちていた山田の飴を喰っちまったあの男だ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る