第30話 全部お前の物

「こ、これは……」弟が声を震わせる。


 感動のあまり言葉を詰まらせた弟の姿に思わず俺の口から笑みがこぼれる。


「感謝しろよ。お前のために俺の彼女からお下がりをもらってきてやったぞ(喜んでくれるかな? わくわく)」


「これを、ど……どうするつもりだ?」


「決まっているだろ? 全部お前の物だ。好きに使えばいい。だが、これからは家の中では女装しろ(せめて家の中では自由にさせてあげよう。そして家族全員でお前をバックアップしてやる!)」


「じょ、じょうだんだろ?」


「はは……、冗談だと? 冗談でこんなこと言う訳ないだろ。俺はな、(可愛すぎる自慢の弟のことを)世界中に言いふらしちまいたい気分なんだぜ?」


 弟は歓喜のあまり唇を噛みしめている。


「さあ、遠慮するな。好きな物を選べよ(悪気はない)」


 部屋に戻るまで待ち切れなかったのだろう。弟は床に散らばる洋服の中からキュロットとTシャツを選び、いきなり俺の前で着替え始めた。

 それほど弟は俺のサプライズを喜んでくれたようだ。


 思わず、

 ――パシャリ。

 写真を撮ってしまった。


「な、なにをした!?」

「なにを? お前の姿を撮ったんだ」


「やめてくれ!」


 これはきっと照れ隠しだな。


「心配するな。(可愛いから)ケータイの待ち受けにするだけだ」


「くっ……」


 恥ずかそうに弟はうつむいた。

 自分の存在意義が他者に認められたことが嬉しいに違いない。


「これから家ではずっと女装していろよ、いいな? ああ、そうだそうだ。新しいウィッグも買っておいてやったぞ。明日あたり宅配便で届くから受けとっておけよ(ああいうのは消耗品だから何個あってもいい)」


 この日から弟は色んな服を着て、色んなポーズで写真を撮らせてくれるようになった。


 俺は弟にどんな趣味嗜好があろうと受け入れてみせる!



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