第29話 兄の務め
登場人物
七海(兄) 七海の兄
七海 中性的な顔立ちの少年
俺には兄弟がいる。三つ年下の弟だ。
俺は小さい頃から弟のことが大好きで仲良くしたいのに、なぜか弟は懐いてくれない。
そんな俺たちの関係に転機が訪れたのは先週の日曜日だった。
隣町の駅ビルで見かけた弟は――、妹になっていた。そう言った方が正確なのかもしれない。
正直言ってかなり驚いたし動揺もしている。
弟のあまりの可愛さもさることながら、隣に同級生らしき少年がいたのである。しかもイケメンだ。
つまり、弟はそういうことで彼はそういうことなのかと俺はすべてを理解した。
俺にできることは限られている。
世間からどう思われようと俺は家族として、兄として全力で弟を応援しよう。ずっと昔、弟が生まれたときから守ることこそが兄の務めだと思っていた。
その日から俺は奔走した。彼女に頭を下げて服を譲ってもらい、弟が付けていたのとよく似たウィッグをネットで調べて購入した。
そして一週間が経過した。
「まさかお前にあんな趣味があったなんてな(悪気はない)」
土曜日の夜、リビングのソファーでテレビを観ていた弟に俺は言った。
「な、なんのこと?」
不安そうな弟の顔に、俺の胸は張り裂けそうなほど痛んだ。早くその不安を取り除いてあげたかった。
「先週の日曜、隣町の駅ビルでお前を見たぞ」
「なッ!」
真っ青な顔で弟は思わず立ち上がった。
やっぱり、俺には知られたくなかったのかと少し寂しい気持ちになる。
もっと早く打ち明けてくれれば協力できたのに。
「あんな姿でも一目でお前だと分かったぞ、やっぱり俺たち兄弟だよな(しんみり)」
感動のあまり弟の脚がふるふると震えだす。
「お前のあの姿、いま思い出しただけで――」
ぐすりと鼻をすすった俺は、「(可愛すぎて)どうかしてるぜ……」と口ずさんてしまう。
「あ、兄貴……、アレには理由があるんだ……実は――」
「理由なんてどうでもいい(何があっても俺がお前を守ってやる!)」
弟の言葉を遮った俺はソファーに向かって紙袋を放り投げた。
投げた紙袋は弟に届くことなく、床に落ちて中身が散らばってしまう。
その中身は彼女から貰ったワンピースにキュロット、キャミソールなどなどの洋服だ。
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