第28話 色んなポーズ

登場人物

 七海 中性的な顔立ちの少年

 七海(兄) 七海の兄貴




「こ、これは……」


 動揺を隠せないオレの前で兄貴は唇を歪ませ、悪意に満ちた三日月を形作った。


「感謝しろよ。お前のために俺の彼女からお下がりをもらってきてやったぞ」


「これを、ど……どうするつもりだ?」


「決まっているだろ? 全部お前の物だ。好きに使えばいい。だが、これからは家の中では女装しろ」


「じょ、じょうだんだろ?」


「は? 冗談だと? 冗談でこんなこと言う訳ないだろ。俺はな、このことを世界中に言いふらしちまいたい気分なんだぜ?」


 オレは唇を噛みしめる。そして悟った。

 いま、オレは脅されているのだ。


 秘密をバラされたくなければ俺の言うことを聞けと、兄貴はそう言っている――。


「さあ、遠慮するな。好きな物を選べよ。くくく……、これなんかいいんじゃないのか? お前によく似あいそうだ」


 そう言ってアニキは水色のワンピースを拾い上げた。


「うう……」


 拒否すれば兄貴に秘密をバラされてしまう。

 例えオレに女装する理由があったとしても世間の受け取り方は違う。

 もはや従うしかないんだ。


 床に散らばる洋服の中で、一番抵抗の少ないキュロットとTシャツを選んだオレは、兄貴の見ている前で着替えさせられた。


 ――パシャリ。

 閃光が瞬く。


「な、なにをした!?」

「なにを? お前の姿を撮ったんだ」


「やめてくれ!」


「心配するな。スマホの待ち受けにするだけだ」


「ぐっ……」

 新たな脅しの材料にするつもりか!?


「これから家ではずっと女装していろよ、いいな? ああ、そうだそうだ。新しいウィッグも買っておいてやったぞ。いま使っているヤツはだいびくたびれていたからな。感謝しろよ、明日あたり宅配便で届くから受けとっておけ」


 

 兄貴が出て行ったリビングで、オレはひとり呆然と立ち尽くすしかなかった。


 この日からオレは兄貴の言いなりになった。

 色んな服を着て、色んなポーズで写真を撮られた。

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