第三章

第27話 スローイング

登場人物

 七海 中性的な顔立ちの少年

 七海(兄) 七海の兄弟、アニキ




 オレは七海、オレには兄弟がいる。3つ年上の高校生のアニキだ。


 アニキは口数が少なく、ぶっきらぼうで愛想がなくて毒舌だ。

 兄弟の仲は良くない。むしろ悪い。

 アニキはオレのことが嫌いらしく小さい頃からいじめられてきた。狡猾なアニキは決して暴力を振るわない。その代わり精神的にオレを追い込んでくる。

 物心ついた頃からそうだった。

 オレが何をした訳でもないのに一方的に嫌われている。オレにとって兄弟とはそういうものであり、兄とは恐怖の対象だった。


 そんなアニキに知られてはならない秘密を知られてしまったのだ。


「まさかお前にあんな趣味があったなんてな」


 土曜日の夜、リビングのソファーでテレビを観ながらくつろぐオレにアニキは言った。


「な、なんのこと?」

 

 ただでさえアニキに話しかけられただけで口の中が苦さでいっぱいになるのに、今回は重大な何かを知られてしまったようだ。

 一体それはなんだとオレは思考を加速させるが思い当たる節がない……。


「先週の日曜、隣町の駅ビルでお前を見たぞ」


「なッ!」

 思わず立ち上がったオレの身体から血の気が引いていく。

 それはオレが女装して和泉とギョーザを食べていた駅ビルだ。


「あんな姿でも一目でお前だと分かったぞ、やっぱり俺たち兄弟だよな」


 くくっ、と声を殺して笑う兄の冷たい視線に、オレの脚がガクガクと震え始める。

 

「お前のあの姿、いま思い出しただけで――」

 ふっと鼻で嗤ったアニキは「どうかしてるぜ……」と吐き捨てた。


「あ、兄貴……、アレには理由があるんだ……実は――」


「理由なんてどうでもいい」


 オレの言葉を遮ったアニキはソファーに向かって紙袋を無造作に放り投げた。

 しかし、スローイングされた紙袋はオレに届くことなく、床に落ちて中身が散らばる。


 紙袋の中から出てきたのはワンピースやキュロット、それにキャミソールなど女物の洋服だった。

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