第20話 最低の男
登場人物
和泉 見た目は俺様系イケメン
俺は七海を想像以上に困らせてしまったようだ。
それは告白したときの七海の表情から容易に想像できた。
同時に、自分の恋が実らないことを痛感する。
「七海、俺の彼女になってくれ」
七海にした告白は嘘ではない。
正直に言えば、彼女のフリをしてくれという理由は後付けみたいなものだった。
奇跡が起きて俺の告白が上手くいけば、そんなことはどうでもよかった。
そう、俺は七海の反応次第で本心を告げるつもりだった。
最初から無謀な挑戦であることはわかっていた。それほどまでに、俺は七海への想いを抑えられかなった。
告白は失敗してしまったけど、結果として今ひとつの奇跡が起きている。
俺はいま七海と手をつないで歩いているのだ。
女装した七海と歩く――、意中の人と手を繋げることがどれほど幸福な出来事であるかを俺は初めて知った。
心臓は激しく鼓動し、脈は速く、体は熱く、繋いだ手は汗で湿っている。
呼吸すらまともにできないほど緊張している。
あいつが改札から出てきたとき、俺に手を振る七海を目にしたときから完全に舞い上がっていた。思わず七海を抱きしめてしまいそうになった。
もちろん俺にそんな度胸はない。
こんなにも近くにいるのに、俺の想いは届かない。
泣きたくなるほど皮肉な話だ。
俺は本当に最低の人間だと思う。今まで感じたことのない高揚感と同じくらい罪悪感を抱いている。
「告白を断りたいから彼女の振りをしてくれ」
告白を断りたいのは本心だ。
だけど、彼女がいると言えばあの子がどう言い返してくるのか、俺にはある程度予測できていた。
その上での打算的な行動だった。
繰り返すが俺は最低の男だ。
それでも女装した七海と過ごせる時間を切望した。
勇気を出して告白してきた彼女の気持ちも、七海の優しさも踏みにじって――。
それでも俺は今、この瞬間がたまらなくて幸せだと感じている。
俺がどれだけクズでくそったれな人間だとしても、死んだら地獄に落ちてもいい……だから神様、もう少しだけ――。
この奇跡のような時間は、あと少しで終わってしまう。
俺の視界に、遠くからこちらを見つめる彼女の姿が見えてきた。
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