第18話 お前しかいない

登場人物

 七海 中性的な顔立ちの少年

 和泉 見た目は俺様系イケメン




 翌日の放課後。


 いまオレは旧校舎の生徒会室に向かって歩ている。

 

 そこは以前、オレが人目を忍んで女装していた場所だ。

 なぜ、和泉はこの場所を指定したのだろう……。

 旧校舎は幽霊が出るという噂があって、生徒は近寄らない。

 そんな人気がない場所に呼び出してまで、いったいどんな用があるのだろうか……。


 今回のテストのことかもしれない。和泉は自信があるようだったから。

 

 しかし、ロングホームルームでは名乗り出る生徒はいなかった。

 仮に和泉の順位がオレより上位だったのなら、なぜ名乗り出なかったのだろう?

 名乗り出る必要がないから?


 和泉の目的はクラスの連中がオレより上位になるのを阻止することだ。

 目的が達成されたのであれば、わざわざ自分から名乗り出る必要はない。


 いや、待て……。律儀な和泉のことだ。ひょっとして前払いの約束を守るため女装してオレを待っているのかもしれない。


 だとしたら人気のない場所に呼び出した理由に合点がいく。

 女装した和泉を見て、オレはどういうリアクションをすればいいのだろうか……。

 

 笑うのは可哀想だから、一応驚く準備はしといてやろう。

 

 

 生徒会室のドアの前で立ち止まり、深呼吸する。


 歪みかけた戸を開くと、和泉は夕焼けに染まる生徒会室でオレを待っていた。

 女装はしていない。


「和泉……」


 オレが声を掛けると和泉は振り返った。

 手には順位表が握られている。


「七海、俺の勝ちだ」

「え?」


 想定外のセリフだった。


 オレは和泉の持つ順位表に顔を近づける。


『総合順位2位』


 間違いなくそう書いてあった。


「だから言っただろ? オレは負けないって」


「マ、マジか……やるな和泉。でもこれを言うためにわざわざこんなところに呼び出したのか?」


 負け惜しみでもなんでもない。

 オレは和泉の努力を知っている。

 驚いた。

 たいしたヤツだと感心した。それが素直な気持ちだった。


 バツが悪そうに視線を逸らした和泉は、

「前払いしてもらっておいてこんなことを言うのはルール違反だと思うけど……。やっぱり俺にはお前しかいないんだ」


 さらに、一呼吸おいてこう告げた。


「七海、俺の彼女になってくれ」

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