第15話 前払い

登場人物

 和泉 見た目は俺様系イケメン

 七海 中性的な顔立ちの少年




 白いカーテンが音もなく揺れている。

 静まり返る保健室には、いま俺と七海しかいない。


「俺は……その……お前のことが……」


 言いよどむ俺に七海は申し訳なさそうに頭を掻いた。


「あー、いや……悪い。実は知ってたんだ……オレ」と伏せた視線を逸らす。


「え……」

 鼓動が跳ね上がり、俺は言葉を詰まらせた。


「委員長から聞いたよ。女装をやめるように班長会議で言ってくれたんだろ。お前のことだから自分が上位になって他のヤツらに権利を与えないようにしてくれたんだろ? だからっていくらなんでも頑張り過ぎだ、倒れるまで勉強するなよ。元々はオレが言い出したことなんだし」


 困ったような、呆れたような、少し辛そうな声色と表情にズキンと胸が痛む。


 七海は責任を感じているんだ。

 俺がこうなってしまったのは自分のせいだと思っている。

 

 七海の罪悪感を取り除いてあげたかった。だって、これはすべて俺のエゴが招いた結果なのだから。

 お前は何ひとつ悪くない、そう伝えたい。


「違うよ。俺も他のヤツらと一緒だ。お前の女装が観たかったんだよ」俺は七海に笑いかけた。


「はあ? 何言ってんだよ、まったくお前も素直じゃないよな」


 微苦笑する七海の姿に俺は覚悟を決めた。


「なあ七海、前払いしてもらってもいいか?」


「前払い? なんの?」


「お前より順位が上だったときの前払いだ。『女装したままなんでも一つだけ言うことを聞いてやる』ってヤツ」


「……本気なのか?」


 七海の声のトーンが変わり、不安が押し寄せる。決めたはずの覚悟が揺らぎ始める。

 拒否されるかもしれない、もう二度と話かけてもらえないかもしれない。元の関係に戻れないかもしれない。

 でも、ここで引いたら次のチャンスがいつ訪れるか分からない。


「本気だ」


「って……まだ結果が出てないのにそんなに自信があるのか? 悪いけど今回のオレはヤバいぞ。トップ3に入るかもしれない」


 首を振った俺は、七海の眼を見据えて不敵に笑う。


「悪いが、勝つのは俺だ」


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