第12話 心

登場人物

 和泉(いずみ) 七海のクラスメイト 見た目は俺様系イケメンだけど常識人 

 七海(ななみ) 見た目は中性的な少年





 七海が生徒会室を去った後も、俺はしばらく動けずにいた。

 自分の中で生じた感情の正体に戸惑いつつも、やるべきことだけはハッキリと判った――。


 俺はこの容姿から勘違いされることが多い。

 わがままそう、なんか偉そう、生意気なヤツ、カッコつけてやがる。


 和泉という男の印象は、いつもそこから始まる。


 環境が新しく変わるたびにマイナスからスタートする。


 本当の俺は女子が苦手で目をまともに見ることもできない。上手く話せないから素っ気ない態度をとってしまう。

 それで余計に勘違いされる。

 その繰り返しだ。


 この学校に入学したときも周囲との距離を感じた。

 根も葉もない噂話が先行して孤立した。

 誤解をときたくても臆病な俺は自分から話すことができなかった。


 そんなときに話かけてくれたのが七海だった。

 七海はいつも真っ直ぐで裏表がなくて自分に正直だ。

 俺はそんな七海が羨ましかった。


 だから七海の力になりたい。


 もしクラスの誰かが七海にテストで勝ったら、悪ノリして許容を超えた要求をしてくるかもしれない。


 委員長たちがどこまで本気か分からないけど、俺が上位に食い込むことでそれを阻止できるかもしれない。


 七海の前回の順位は学年六位だった。

 今回、七海は今まで以上に勉強するだろう。七海が一番になってしまえば約束を守る必要すらなくなる。

 つまり、一番になるつもりでやらなければ七海は超えられない。


 七海の力になりたいんだ――。


 ――本当にそうなのか?


 机の端に置かれたスマホの画面に写り込んだ自分に問いかける。


 ――違うだろ? お前はクラスのヤツらに七海を渡したくないんだ。


 心がそう叫び出す前に俺は教科書を開いた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る