第11話 秘密

登場人物

 和泉(いずみ) 七海のクラスメイト、見た目は俺様系イケメンだけど常識人、1班の班長

 七海(ななみ) 見た目は中性的な少年




 班長会議が終わった後、俺は旧校舎にやってきていた。

 

 すでに窓の外は夕日で染まっている。


 嫌なことがあったりイライラすることがあると、よく旧校舎の生徒会室で時間を過ごしている。

 今日も七海の処遇について委員長に言いくるめられたことが納得いかなくて、一人でここにきた。


 生徒会室には昔使われていた机やソファーがそのまま置いてあり、必要な物が一通り揃っている。少し埃っぽいけど快適だ。

 それに幽霊が出るという噂があり、生徒たちが近寄らないため静かでゆっくり本を読むことができる。


 俺がソファーで文庫本を読んでいると、廊下から足音が聞こえてきた。


 こちらに近づいてくる。

 そして足音は生徒会室のドアの前で止まった。


 俺は咄嗟にソファーの背もたれの陰に身を隠す。

 ギギギとドアが開く音がして、足音が続く。一人分の足音だ。


 そして、内側から鍵を掛ける音が室内に響いた。


 まさか……、マジで幽霊なのか?


 ごくりと唾を呑み込んでからおそるおそる顔を覗かせると、そこにいたのは七海だった。

 

 七海は生徒会室を見回している。

 俺の存在には気付いていないようだ。


 誰もいないことを確認した七海は、壁に取り付けられた鏡の前で立ち止まり、床に置いたスクールバックからある物を取り出した。それは女装するときに被る黒髪ストレートのウィッグだった。


 七海はおもむろにウィッグを被ると、鏡に映る自分を見つめた。 


 頬を紅潮させて、惚けるように、大きな瞳で自分の顔を見つめている。


 少し角度を変えたり、笑ってみたり、怒ってみたり、色んな表情を確かめている。


 ――なんだよ、意外とまんざらでもなかったのか……。


 クスっと笑い、俺は少し安心した。


 すると七海は、いったい自分は何をやっているんだと、そんな風に我に返ったのだろう。

 一度目を伏せてから、気恥ずかそうに鏡の中の自分に向かってはにかんだ。


 その表情を見たとき、俺はその感情を言葉で言い表すことができなかった。

 きっと初めて芽生えた感情だったから……。



 たぶん俺は……、鏡に映る七海のはにかむその顔が、たまらなく愛おしいと感じたのだ――。



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