第4話 謎

 なんだか一気に疲れたな…。…帰ろ。


 俺は騎士団寮へ歩みを進めた。



    ◇



 「呼び出し何だったんだって?」



 部屋に戻ると、自分のベッドでくつろいでいるエドウィンに声を掛けられる。騎士団寮は隊長以外は相部屋と決まっていて、俺の同室は彼だ。


 寮では基本的に生活時間の合う同じ隊の人間が同室になる。でも、ギフトのない俺と同室になりたがる人はいなかった。その時、声を掛けてくれたのがエドウィンだった。彼は警備隊の衛兵として街の安全を守っていて、自称人気があるらしい。討伐隊の俺と警備隊の彼では生活時間は合わないが、それでもいいと同室になってくれたのが心底嬉しかったのを未だに覚えている。彼は誰にでも分け隔てなく接す事のできるとても優しい人だ。エドと愛称で呼ぶことも気軽に許してくれる。



 「あー。エレナ隊に異動になった」



 俺は自分のベッドに座りエドと向かい合う。


 少し間を空けた後、エドは驚いた様子でベッドから飛び起きた。



 「え!? あのエレナ隊にいくんだって!?」


 「うん」


 「え! エレナ隊と言えば、色なしでもギフトが使えるっていうエレナ隊長と片腕しか使えないレイモンドさんにヴァレンタイン家唯一の落ちこぼれといわれるシャノンさんがいるっていうあの!?」


 「く..詳しいね?」


 「勿論! 俺今エレナ隊にハマってるんだって!」



 ベッドから落ちそうな程身を乗り出す彼は様々な情報を集めるのが趣味らしい。彼曰く、情報を知ることで見えてくる世界もあるらしい。俺の知ってる情報も彼から聞いたものがほとんどだ。

 ただ話始めると止まらないのは困る。



 「エレナ隊はね、謎だらけなんだって! まずレイモンドさんは、元々凄い剣の才能も人望もあって次期隊長、ゆくゆくは団長にって言われてたんだって! それが右腕の怪我を境に少しずつ剣の腕が落ちていったんだって。任務でも足手まといになるようになってきて段々人望もなくなっていったんだって。怪我自体は完治してるらしいけど今では剣も握らないんだって」


 「え? 何で?」


 「それが謎なんだって! 色々聞いたんだけど皆言う事が違くて、剣を握るのが怖くなったんじゃないかとかやる気がないのではとか、とにかく謎なんだって! そもそも何で怪我したのか聞くと皆口を噤むんだって」



 右腕の怪我…。だから握手の時に左手を出したんだろうか?



 「次にシャノンさんは、騎士の名門と言われるヴァレンタイン家出身なのに剣の才能は全くないんだって話はしたね?そのシャノンさんが騎士団に入れたのは彼の父親のおかげなんだって!」


 「父親? 何で?」


 「シャノンさんの父親はここの上層部にいるんだって。だから入れたんだって。噂では試験すらしなかったらしいんだって。で! ここからが謎なんだけど、シャノンさんのギフトが何なのか誰も知らないんだって! ギフトがないんじゃないかって言われてるんだって」



 でもシャノンさんの髪色は薄かったけど色自体がないわけではなかった。俺と同じで珍しい体質なのだろうか。



 「でもやっぱり最大の謎はエレナ隊長だって! 彼女に関してはわからない事がほとんどだって。わかってる事といえば団長と仲が良いって事くらいだって」



 それであの態度だったのか。それにしても彼の情報網を持ってしてもわからない事だらけなんて今までなかったことだ。だからこそ興味津々なんだろう。



 「自分的特に疑問なのは、エレナ隊自体だって」


 「そんな疑問に思う所ある? 結局他の隊で不要になった人達の集まりって事でしょ?」



 口をついて出た言葉だったが、今や自分もエレナ隊だと気付き胸が痛くなる。


 ほおけた顔のエドは少しすると笑い出し、



 「ミカ、それ自分に刺さってるだけだって」



 と言った。



 「今刺さってるから何も言わないで」



 エドは余計楽しそうに笑った。



 「で話は戻るけど、エレナ隊は討伐隊の中で“お荷物”と呼ばれてるんだって。でも、そんな舞台が何故か難しい任務に行かされてるんだって。そして毎回任務は達成して帰ってくるんだって。というか、“お荷物”なのに自分みたいな警備隊になればいいのに何故討伐隊なのかとか色々疑問なんだって」


 「確かに」



 一理あると思った。討伐隊の“お荷物”と言うなら実力のあまりない人が所属する警備隊衛兵に異動させればいい話だ。何か討伐隊に残る理由があるのだろうか。


 考え込んでいるとエドが一気に近づいてきて、俺の手を両手で包むように握ってきた。



 「ねえ、ミカ。お願いがあるんだって!」



 目を輝かせて俺を見つめる。何だか嫌な予感がする…。



 「エレナ隊の情報だって! 何でもいい、些細な事でもいいから教えて欲しいんだって!」



 やっぱり…。こうなった彼はもう誰にも止められない。俺が折れるしかないのだろう。



 「わかったよ。でも俺は成果を上げて他の隊に行く予定だからエドの欲しい情報は得られないと思うよ?」


 「それでも良いんだって! ありがとうだって!」



 満面の笑みをうかべながら俺の手を上下に振り回して喜ぶエド。そのあまりの勢いに肩関節が外れそうだ。


 まあ、嬉しそうだからいいか。


 手を離した後も子供のように飛び跳ねて喜ぶエドのお腹が盛大な音で鳴る。動くのをやめて少し照れるようにゆっくりとこちらを見るエド。



 「ミカ、ご飯行こうだって」


 「うーん。ごめん。俺今日はいいや」



 色々な事があったからか食欲が湧かなかった。



 「じゃあ、行ってくるって」


 「うん。行ってらっしゃい」



 冷静さを取り戻したエドが部屋を出ていくのを見送った後、俺は靴を脱ぎベッドに横になった。横になった瞬間、眠気が一気に押し寄せる。


 あー、制服脱がないと…。


 頭では思いつつも体が全く動かない俺は、睡魔に襲われ瞼を閉じた。

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