第3話 エレナ隊

 お疲れと言うとエレナは足早に部屋を出ていった。副団長に促され、俺は彼女の後を追いかけた。



     ◇



 部屋を出るとエレナが立っていた。



 「隊員を紹介する。ついてきて」



 返事も待たずに彼女は歩き出す。沈黙からなのか、彼女の歩幅が小さいからなのか、短いはずの廊下がとても長く感じる‥‥。



 「あの、俺が何で異動になったか聞かないんですか?」



 あ、余計な事を言ってしまった。あまりの沈黙に耐えきれず口を開いたが、これでは自分が役立たずだと言っているようなものだ。どうしよう。なんて言って訂正しよう。



 「あの!」


 「別に興味ない。言いたいなら言えばいい」



 淡々と答える彼女は本当に興味がないのだろう。言いたかったわけではないがここまで関心がないのも少し悲しい気もする。


 結局、沈黙に戻ってしまった‥‥。互いに話をしないまま進んでいると、入口で楽しげに話している大柄の男と目を髪で隠している人、更に犬までいた。


 誰だろう。というか、犬?


 こちらを見た両者は顔を見合わせた後、大柄の男が手を振る。



 「おーい! エレナ!」



 その声に応えるようにエレナは駆け出した。俺もあとをついていく。


 この反応からしてこの人達がエレナ隊なのだろう。こうやって駆けていく姿は子供そのもののように感じる。



 「ごめん。待たせた」


 「そんな事気にすんなよ! 好きで待ってたんだからな!」



 ガハハと豪快に笑う大柄の男は彼女の肩を叩く。その大柄な男の後ろで隠れるようにしている人物がこちらを見ているように感じる。


 あれ? この人、確か有名な……



 「エレナ。えっと…その人は誰…ですか?」


 「あー。今日から隊に入ることになったミカエル・トレント」


 「ミカエルです! よろしくお願いします!」



 彼らに向かって頭を下げる。



 「俺はレイモンドだ! せっかく仲間になったんだ。仲良くしよう!」



 レイモンドと名乗る大柄の男は握手をしようと手を差し出してきた。


 てか、左手…。え、仲良くって言ってたのに嫌われてる? 俺。敵意むきだしじゃん。怖。


 色々考えたが、俺にはとびきりの笑顔で握手をするという選択肢しか残されていなかった…。



 「あ..あの….僕は..シャノン・ヴァレンタインです。えっと….よ、よろしくお願いします」



 やっぱりイーサ隊長の弟だ。騎士団に入れたのが不思議なくらい弱いらしい。そんなに弱いのにどうして討伐隊にいるんだろう。討伐隊は騎士団の中でも腕の立つ人が多く在籍してるのに。



 「そして、この子がテオだ」



 エレナは真っ白でモフモフな毛並みの小さな犬を抱き上げる。



 「わん!」



 よろしくと言わんばかりに吠える。


 というか、犬の隊員ってありなのか?


 俺は苦笑いすることしかできなかった…。



 「さて、堅苦しい挨拶も終わったし皆で飯でも行こうぜ! ミカエルも入ったし歓迎会にしよう!」



 言った勢いのまま肩に腕を乗せられ、連れていかれそうになる。



 「すいませんが俺は明日の任務の準備があるので、これで失礼します」



 レイモンドさんの腕から抜け出し、エレナ隊の面々に一礼した後、俺は騎士団本部の外へ出た。日が高い頃に呼び出されて、もう日が沈みそうだ。


 なんだか一気に疲れたな…。



 「…帰ろ」



 俺は騎士団寮へ歩みを進めた。

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