掌編小説・『蠱惑的な小箱』
夢美瑠瑠
☆
その小箱は、レモンイエローで、ちょうど手のひらサイズだった。
重さは20グラムあるかなしか、というごく軽量で、なんとなくつやつやした材質の金属?でできていた。
一見しただけでは、どういう用途なのかはおよそ穿鑿が不可能だった。
さる豪華なリゾートホテル…その最上階のペントハウスというのか、超豪華な特別室の、窓の脇に、その小箱は置かれてあったのだ。
私は、スパイにして67か国語を操る言語学のスーパー・プロフェッサー…
人呼んで、DR・イエス。未だかつてミッションにしくじったことのない、”スーパースパイ”である。
スパイをやっているのは趣味であり、フリーランスで、任意の国からのかなり困難な様々なミッションのオファーを受託して、周到かつ完璧にクリアするのが日常の業務である。
”神算鬼謀のスペシャリスト”と異名をとる、言語学その他の知識や
様々な国の機密や極秘の情報を、知りうる立場に立つことのできる、
そうしてゆくゆくは007とかを凌駕する「究極のスパイ小説」を執筆する…そのための「取材旅行」を兼ねた”ミッションクエスト”を敢行中というわけである。
瑠璃が鏤められた美麗な意匠の”ブラックカード”を常用していて、カネというものを使ったことがない。
ミッションのクリアに必要とあれば、小国の国家予算を凌駕する資金力で、金融市場を動かして、乗っ取って、テロ国家や宗教をぶっ潰すということも辞さないし、可能でもある…
「箱、か…日本語では「函」という別の字があるな?ハコダテという地名があったっけ。関数のカンにこの字を当てることがある。その場合には多少用法に紛れというか含みがあって…」
1000分の一秒ほどの間に私はそうした思索を巡らせていた。
いかにも言語学の専門家らしい…といえば、そうも言えそうだった。
掌編小説・『蠱惑的な小箱』 夢美瑠瑠 @joeyasushi
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