第5話

吸血種たちの中に、稀に持つ特殊能力というものがある。全員が持って生まれるものではないそうだ。

個体によって様々であり、その能力は年を経るごとに強まることも弱まることもある。

ミヤコは、リセのいうノイズ、を能力の劣化なのではないかと疑っていた。


「それじゃ、取り掛かりましょうか」

「あたし眠いんだけどな…」

「つべこべ言わない。吸血種が夜に弱いなんてね」

「何百年前の話してるのよー?あたしたちが夜行性だったのは大昔の話。今じゃ人間たちと同じく昼間に活動するのが大半なの~」


パジャマ姿で寝ぼけ眼を擦り、文句を言いつつもリセはぐっと背伸びをする。ついでにコキコキと首を鳴らしてから、真紅の瞳を自身で作った「窓」へ向ける。対象は1時間前に帰宅してからのキッチンの様子だ。


「じゃ、いきまーす……」


ミヤコは彼女の過去視を、腕組みして見守る。


この過去視がうまくいけば、リセの能力に問題はないということになる。

1時間前にパスタを茹でていたミヤコの姿が視えないとなると、まずいことになる。ましてやまたノイズなんてものが混じったら……そのときは使い物にならないということで、上に報告しなくてはならない。最悪はバディ解消だろう。ミヤコはそれでも構わないが、犯人をのさばらせておくわけにもいくまい。


「視えてきた。ミヤコ、ぶすくれてパスタ茹でてるよ。その更に1時間前は普通に不在だったから、なんもなしー。真っ暗キッチン」

「ぶすくれ……一言多い。そう、じゃあ力に問題はないということ?」

「ないねー。なんなら明日また試してみるよ。今日の現場のがおかしかったんだ。……もしかしたら」


銀色の髪を無意味に指に巻き付けながら、彼女は呟く。


「犯人も能力持ちの吸血種なのかも」

「……六回目の犯行よ。あんたに視られてることにようやく気付いて邪魔してきたって?」

「ありえなくはないよね?能力持ち……あたしたちの世界ではギフテッドって呼ぶけど、彼ら彼女らはそれぞれいろんなことができちゃうんだから」

「大事な前提を聞いてなかった。あんたたちの超能力は、今回の連続殺人事件のように人を九つに裂くこともできる個体がいる?」

「いるかもしれないけどいないかもしれない。そんな危険な能力持ちが居るなら、とっくにあたしたち側が死刑にしてるレベル。吸血議会はギフテッドの情報登録は怠ってない。それに司法解剖でも、刃物で八つ裂き……九つ裂きにされてるって話なんでしょ」

「そういやそうか」

「ミヤコにしては無意味な質問だったね」


ぱす、と音を立ててリセはリビングのソファに寝転ぶ。我が物顔で。彼女の寝床はそこなのだ。ミヤコは自分のベッドだけは死守している。


「今日のノイズのことは明日考える。今までの被害者や事件のお復習いも明日にしよ。でないとミヤコ、朝までぶっ通しでやりそうだしさ」


よくわかっているものだ。


「……いいわ、わかった。おやすみ」

「んー。おやすみハニー。ちゅっ」

「その呼び方と投げキッス、次やったら撃つ」

「きゃー、こわいこわい。おやすみぃ」


白々しい一言と共に、ひらひらと手を振ったリセは完全に眠る体勢になっている。

ミヤコは嘆息をつくと寝室へ引き揚げるのだった。


血塗れメアリー連続殺人事件。六回目の犯行。リセの過去視に謎のノイズ。


ミヤコの寝付きを悪くする要素はてんこ盛りで、彼女は追加の溜息を吐き出すのだった。

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