第3話
「おっす、あたしリセでーす。花も羞じらう19歳の吸血種でーす!よろしくお願いしまーす!おねーさんっ」
その少女……リセ・シルヴィアと出逢ったのは三ヶ月前、最初の事件が起こった日のことだった。
うら若い少女が殺された見るも凄惨な現場で、彼女だけが底抜けに明るかった。
「吸血議会の特派員だ。なんでも優秀な能力持ちらしくてな。神宮寺、お前には彼女とバディを組んでもらう」
「はあ、バディ、ですか……え?私が?ちょっと待って下さい!私は吸血種がっーー」
「上司命令だ、神宮寺ミヤコ。他の者も吸血種と組んで捜査に当たっている。例外はない」
上からーー水上警部の押さえつけるような命令に、ミヤコはぐっと唇を噛んだ。
吸血種と人間が共存するこの現代で、警察が吸血種と関わるケースは少なくない。それでも今まで巧みに、吸血種とバディを組んで捜査に当たることだけは避けていたのに、なのに。
俯くミヤコの顔を、ぱっと少女の顔が覗き込んだ。朗らかな笑顔で、白磁のような肌に紅い瞳の美しい顔。ポニーテールにした銀髪がふわりと揺れていた。
「ミヤコっていうの?おねーさん」
「……ええ」
「再度、よろしくお願いしまーす。リセって呼んでね。あたしもミヤコ、って呼ぶから」
屈託なく笑うその顔、正しくは口許には、吸血種のシンボルである吸血牙がなかった。
珍しいことではない。吸血衝動を抑えるために、牙を敢え抜いている者も少なくはないのだ。この少女もそうなのだろうとミヤコは思った。
顔を上げる。
「リセ」
「うん、なーに?」
「あなたはこの殺人事件の捜査で、何ができるの」
その問いに、リセは破顔し勿体振るように両頬を押さえてくるくると回った。殺人現場に似付かわしくないピンクのワンピースの裾が花片のように舞う。
「知りたい?知りたい?なななんと!現場の過去を遡って見られるよ」
「……本当なの?」
「あたしにしか視えないから、口頭での説明になるけどね。信じられないって人もいるし。でもあたしは、嘘はつかない。視えたものを正確に伝える。それがあたしの矜恃だから」
腕組みをするミヤコと水上警部に背を向け、リセは殺人現場ーー百合の花とMaryの血文字が残されているーーに相対するように立つ。
両腕を伸ばす。
両指を組み合わせて、窓のような輪を作る。
真紅の瞳がその窓を覗き込むと、きらりと瞳が光を孕む。
「ーー視えてきた」
それは事件から三時間前が限界の、彼女特有の過去視能力。
あくまでその現場の変化だけが視える、というリセだけの、リセのための力だった。
その力があるからこそ、ミヤコは己のポリシーを破る気になったのだ。
吸血種とは関わらない、という心に固く決めていたポリシーを。
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