第4話

 注意、僕はプロではございませんので、これを仕事と呼ぶべき事ではないのではなか。と、言うツッコミは、やめていただきたい。

 ただの趣味だ。ただの趣味なのだ。趣味の一環だ。人の趣味の一環に口出ししようものなら、馬に蹴られるに違いない。間違いない。

 しかし、彼女からなら話は別だが。彼女からなら、いかなる言葉でも受け入れるべし。受け止めるべし。どんな言葉であろうと受け入れてみせる。受け入れてみせるぜ。

 そして、ついでに Web up させる。


 Web up O.K.

 完璧だ。


 さすが、僕。相変わらず仕事が早い。さて、次の戦地へ向かう。そう、次の戦地。この登り坂の上だ。まだまだ上には上がある。


 いざ、墓場へ。


 坂を登りながら、後ろを振り返った。誰だか、見えない誰かに呼ばれたような気がして、下り坂を見下ろした。誰もいない。やはり、一人として坂を登る者は誰もいない。誰一人見当たらない。遠くの方で車が走っているだけだ。


 のどかだ。不自然な世界だけど。


 相変わらず一言多いな、僕。

 そんな事を考えながら、下り坂も写真に収める。町並みと桜を写真に写した。

 しかし、なんだかなあ。無機質な町並み。やはり、どこか物悲しい世界だ。この世界に慣れている者にとっては、ありふれた光景なのだが。この町並みを山の上から見下ろしたら、それはそれで綺麗かもしれない。美しいかもしれない。

 このコンクリートジャンル。自然界とは真逆だ。真逆な世界だ。無機質なコンクリート。

 僕は、何故こんな世界で生きているのだろう。何故こんな世界に来てしまったのだろう。誰も、その答えを知らない。知る由もない。答えが出ないのに出題される問題に、誰か答えていただきたい。

 答えられる者は、果たしているのだろうか。問いかけた答えは見つからないまま、日常へと溶け込んでいく。葬り去られていく。

 自然界に反している生き方を、一体僕たちは、いつまで繰り返さなければならないのだろうか。僕たちは一体いつまで、こんな不自然な世界で暮らさなければならないのだろうか。

 その問いに答えられる者など、どこにもいない。どこにもいないのだ。きっと。


 美しい桜を眺めながら、物思いにふける。少しばかり、ぼんやりしてしまった。僕の悪い癖かもしれない。隙あらば、心の中の悲しみが湧いてくる。

 僕の心は、ガラスのハートで出来ているのだろうか。だとしたら、もうヒビが入っているに違いない。皆もそうであろう。誰にだって心のどこかに、傷ついて傷つけられた、ガラスのハートがあるのだ。僕を含めた、皆の中に。ヒビの入ったガラスのハートが。

 しかし、その目には見えないガラスのハートの存在に気づいていない者も、いるかもしれない。

 誰だって持っている。誰もが持っているのだ。心の中に隠したガラスのハートを。知らぬ間に傷つけられたガラスのハートを。誰にだってある。そう、誰にだってある。

 ただ、隠れてある。隠してあるのだ。隠されたガラスのハート。閉ざされた心の中の入り口。誰だって隠しておきたい。閉ざしておきたいものがある。ものもある。

 人とは、そういう生き物ではないかと自問自答してみる。果たして答えは合っているのだろうか。別に合っていなくたって構わない。僕なりの哲学だ。

 この世界に生きている者で、心に傷のない人なんていない。僕は、そう思っている。この世界の隠された法則。それが、ヒビ割れたガラスのハート。ガラスのハート。

 秘密の法則だ。

 僕の見つけた秘密の法則。秘密の真理。僕だけではない。この秘密の法則を知る者は。きっと、僕だけではないはずだ。


 またしてもや、僕の思考は、ぶっ飛んだ方向へ向かってしまった。これは僕の癖だ。これが、僕の必殺、思考それまくりの術だ。さあ、ついてこられる者は、いるだろうか。もはや誰も、ついてこられなさそうだ。


 次に、行ってみよう。


 さあ、気分を入れ替えて戦いの場へと向かう。そう今回の目的は、桜の写真撮影だ。僕の思考は飛び飛びだが今回の目標は、桜の写真撮影だ。しつこいようだが繰り返す。

 さあ、さあ、坂を駆け上がるぜ。この坂道を。この先にも、まだ桜がたくさん咲き誇っているはずなのだ。

 ただし、そこは墓地だという事を、お忘れなく。いざ、戦地へ。いざ、激戦区へ。


 さあ、墓場へ。僕は向かう。


 ほんの少し息が弾む。そして、無事ご到着。心臓がバクバクしている。心躍らせているのではなく、ただ息切れをしているだけだ。そう、ただの息切れだ。

 相変わらず体力がないな、僕。運動不足も、いいところだ。春休みに怠けてしまった身体を、なんとか元に戻さねば。彼女から痛い一言を受けないためにも。

 心地よい疲れを隠せない僕は、あたりの風景を見渡した。思った通り桜並木が広がっている。ここには、まだ墓はない。なかなか、いいスポットだ。両サイドに桜並木が。そして、道路の真ん中に何故か一本だけ、満開の桜が生えている。

 さて、どう撮るか。この美しい景色を、どうカメラに収めるか。ここからが僕の腕の見せ所だ。ここぞ僕の腕の見せ所。

 まずは、道路の真ん中に生えている桜を中心に、両サイドの桜並木も入れて、数枚カメラに収める。

 撮った写真をチェックする。道路が写っているではないか。なんたる失態。道路が自然界っぽくない。自然界っぽくない桜並木という自然界の美しさに対して、反して、またしてもや文句を言いたい。

 だが、少しくらい道路が写っていてもいいだろう。

 これが現実世界だ。僕には受け入れ難いのだが、今の世界に文句をつけたところで、どうにもならない。何故、人々は気づかないのだろう。この世界の、おかしさに。不自然さに。

 またしてもや、少々心が痛む。心が痛むが、いた仕方がない。


 話がまた、それてしまった。僕の悪い癖だ。現実世界を見たくないという、現実逃避。自然界に目を向けてはいるものの、僕の考えはただの現実逃避に近いのかもしれない。自然界に目を向けて美しく称賛しては、現実逃避。これが僕の悪い癖。ここは大目に見てもらいたい。が、自分でも直さなくてはいけない悪い癖だ。

 道路が写っていない写真も数枚撮る。なかなかの出来栄えだ。

 なんとなく空が多めだ。もっとアップにしてみよう。

 なかなかいい感じだ。よく撮れている。これはこれで、よしとしよう。仕事をサクサクこなす僕。さすがだ。


 さあ Web up O.K.


 一応この写真も載せておく。ブログが、いい感じに花畑だ。

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