第5話

ふと見上げた空は青空だ。飛行機が一機、飛んでいる。少し半透明な飛行機。珍しい。しかし、僕のカメラには収める事が出来ない。小さ過ぎるからだ。その飛行機が一瞬キラリと光った。そして、また元の飛行機に戻った。不思議な飛行機は、まるで飛行船のようだ。


 空飛ぶ飛行船。


 僕の目には、そう映った。僕は飛行機に向かって


 ありがとう。


 と、言いたくなった。心の中で、お礼を言う。すると、またキラリと光った。不思議だな。不思議な飛行機だ。さあ、次の場所へ向かおう。


 いざ、墓場へ。


 さあ、この辺りから墓が並びだした。桜が道なりに咲いていた。中央には墓がある。ここのメインは墓か。桜を写しに来た僕としては、違うだろと思った。メインは断じて墓ではない。

 桜だ。

 桜こそがメインではないか、この季節。何故こんなに墓があるのか。やはり桜の下には●●(ピー 自主規制)が埋まっているのだろうか。ここは墓場だ。墓地なのだ。墓がメインで当然と言えば当然だ。


 両手を上に伸ばし、携帯電話で桜だけを写そうと、限界まで頑張って腕を伸ばし、桜だけを撮ろうとする。

 だが、しかし。若干、写ってしまった。例の物が。心霊写真では、なかった事を確認した僕は、胸をなでおろし安堵する。よかった、霊が写ってなくって。

 さあ、再び気を取り直し、僕は両手を上に掲げる。携帯電話とともに。伸び上がる僕。シャッターチャンスが分からず、とにかくボタンを連打した。

 何枚か撮影し、青空と桜並木を頑張って写した。写したつもりだ。そして、写真を確認する。なかなか、よく撮れているなと、また自画自賛してみる。自画自賛してみるも、もはや空の方がメインな写真になってしまっている。Web upは、やめておこう。


 再び辺りを歩きながら、ここぞとばかりに撮りまくる。

 墓地を一人で歩き周りながら。

 今の季節しかない、この光景。この光景は今の季節しか撮れないのだ。桜が散ってしまう前に、一枚でも多くの写真を撮りたい。僕は夢中になり、桜を撮りまくった。

 まるで何かに取り憑かれたかのように。まるで何かに取り憑かれたかの如く。確認のため言っておく。

 ここは墓地だ。

 何かに取り憑かれても、おかしくは、ないのだが。一瞬、背筋がぞくっとしたような気がした。気のせいに違いないが。ちょっとホラーちっくに付け足してみる。

 よし、写真はこんなものでいいだろう。

 なかなかの出来栄えに自画自賛し、ここぞという写真を数枚upする。さすが僕。いい仕事してるぜ。


 Web up O.K.


 今日のところは、これくらいで、よしとしよう。なかなか、いい写真がたくさん撮れた。撮れまくった。満足、満足。

 だが、逆光の部分もあったため、後日また来て撮り直そうと思う。僕は携帯電話をポケットに仕舞い、墓地を後にした。


 ちらほらといる墓参り客。それ以外は人気がなく、鶯が鳴いていた。綺麗な声で鳴いている。景色に溶け込むように、透き通るような声だ。


 のどかだ。


 こんな墓地で、僕は自然に触れ、自然の大切さを改めて実感した。そして、不自然なコンクリート世界に少し胸を痛めた。不自然なコンクリート世界。この事実に気づいている者たちは世界中に、どれほどいるのだろうか。

 トップクラスの人間たちだけが優雅な生活を送っている。この事実に気づいている者たちは、一体どれほどいるのだろうか。支配されている世界。一体いつから支配されて、一体いつまで支配され続けるのか。そんな心配をしても、今はまだ無駄なのかもしれない。

 さて、帰るとするか。

 僕は美しい桜並木を後にする。背を向けて歩き出す。


 彼女の家に寄って帰るか。


 いや、写真を印刷してから彼女の家に向かうか。この写真を見て彼女はどう思うかな。今から胸を弾ませる。今度は彼女と一緒に花見に行こう。ここではなく、もっと別の場所で。

 さすがに墓地ではデートなどしたくない。公園とか、その辺で。

 彼女と桜を一緒に撮れたらいいのだが。僕には人物画を撮る技術が、まだまだ不足している。苦手と言っても過言ではない。結構、美人な彼女を、ありのままの姿を写す事は、今の僕には難しい。

 ちょっと変わった彼女だが、美人か可愛いかで言えば、ちょっと美人系な、ちょっと可愛い系女子だ。ちょっととか言ったら彼女に激怒される。訂正しよう。かなりの美人。ちょっと風変わり的な可愛い系女子。なんだか、また一言多いな、僕。


 僕は桜の枝に手を伸ばした。桜の花を一つ摘み取った。これを持って彼女の元へ行こう。今日、撮った写真の印刷は帰ってからでも出来る。彼女の家に向かうべく、僕は坂道を速足で下った。


 <完>

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