第14話 陽狐の好きなもの

 日々の労働に勤しみ、迎えた休日。


 その週は会社都合で日曜日と月曜日が休みだった優斗は、いつもならゆっくり寝ているつもりが日頃から目覚ましのアラームに擦り込まれているからか、早朝に目を覚ました。


 暗い部屋でスマホの時計を見てみればまだ五時半。

 優斗は横の布団で気持ちよさそうに眠っている陽狐の寝顔を見たあと、二度寝をしようと目を閉じる。


 次に目を覚ましたのはそこから約二時間後のことだった。


「目が、覚めちゃったなあ」


 欠伸をしてスマホを覗き、時間を確認したあと。

 三度寝をかましてやろうと目を閉じるが、一向に眠くならないので、優斗はのそのそと布団を出た。

 既に陽狐は目覚めているようで、布団は綺麗に畳まれている。


 腹が減ったこともあり、スマホ片手に優斗は寝室からリビングに向かい、扉を開けた。


 すると、陽狐がソファに座ってテレビを見ていたのだが、優斗の姿を見るなりテレビを慌てた様子で消してソファから立ち上がり、優斗に近付いてくる。


「お、おはようございます優斗さん。お早いですね、何かお食べになりますか?」


「うん。パン食べようかなぁ」


「分かりました。すぐに用意しますね」


「テレビ見てたんじゃないの? いいよ見てて、俺自分でやるから」


「いえいえ大丈夫ですよ」


 そう言ってキッチンに向かおうとして、陽狐は優斗に背を向けた。

 そんな陽狐に代わり、優斗がソファに座ってテレビをつけたところで日曜日の朝に放映されている特撮が映し出された。


「お〜。今の戦隊モノってこんななんだ、久しぶりに見たなあ」


「今期の戦隊モノは初の女性レッドがリーダーを努めてるんですよ。合体ロボも格好良くてですね」


 優斗の呟きに、キッチンに向かっていたはずの陽狐が横に座って放映されている戦隊モノの特撮について熱く語り始めた。

 

「陽狐さん特撮好きなんだね」


「あ、いえその。はい。特撮というか、アニメとかも好きで」


「じゃあゆっくり観ようよ。俺の朝ご飯はあとでも良いからさ」


「いえそんな。すみません、すぐに用意しますので」


 隠していたわけではないのだが、趣味がバレて顔を赤くした陽狐が再びソファから立ちあがろうとしたが、優斗は陽狐の手を握ってそれを阻止すると陽狐に向かって微笑んだ。


「休日はゆっくりのんびりで良いんだからさ。陽狐さんも一緒にゆっくりしようよ」


「ゆ、優斗さんがそう仰るなら」


 こうして陽狐にかいつまんでストーリーを説明してもらいながら、戦隊モノの特撮を見終わると、次の番組が始まった。

 戦隊モノと同じく昔から連綿と続く仮面を被ったライダーのアクションドラマだ。


「昔っから思ってたけどさ。このシリーズって子供向けにしてはエグい話多くない?」


「そうですねえ。割と人がお亡くなりになりますからねえ。ストーリーもお子様には少し難しいですし」


 番組の間に差し込まれるCM中に会話をして特撮番組二本を楽しむ二人。

 その後始まった番組、少女が変身して悪と戦う物語のアニメのオープニング曲が始まったあたりで陽狐の目が先ほどまでより輝いた。


 どうやら陽狐のお目当てはこのアニメらしい。


「このシリーズも、もう長いよねえ」


「ですねえ。実は今シーズン、初めて男の子がメインキャラに抜擢されまして」


「へえ〜。今までメインキャラ全員女の子だったのにねえ」


「そうなんですよ。昔の優斗さんみたいに優しくて可愛らしいんですよ?」


「いやいや。俺はそんな感じじゃなかったでしょ」


 話しているうちにオープニングが終わったので、優斗は口を閉じてアニメを見ながら、いやアニメはそこそこで、アニメを楽しんでいる陽狐を見ていた。


 話の展開で笑顔になったり、不安そうに顔をしかめたりしている陽狐の様子に和んで微笑みを浮かべる。


 そして次回が気になるエンディングを迎えたあたりで陽狐は深く息を吐いて、ソファに深く腰を沈めた。


「今週も楽しい時間でした。やっぱりアニメや特撮は面白いですねえ」


「そうだねえ。俺は最近深夜帯のアニメしか見てなかったから、久しぶりに新鮮だったよ」


 言いながら、優斗は立ちあがると今度こそ朝食を食べようとしてキッチンに向かう。

 そのあとに陽狐が続き、優斗がパンを焼こうとしているのを見て冷蔵庫からいつも優斗が塗っているチョコクリームのチューブを取り出し、ついでに卵とベーコンを取り出してフライパンで焼き始めた。


「お。ベーコンエッグ作ってくれるの?」


「はい。ちょっと遅くなってしまったのでお腹が減ってらっしゃるかと思って」


「ありがたく頂きます」


 パンが焼ける間に食器棚から皿を出し、優斗は陽狐が調理をしているコンロの横の調理台に一枚皿を置く。

 そうこうしていると、トースターから耳心地の良い音が鳴ったので、焼けた食パンを皿に乗せた優斗はテーブルについて陽狐が用意してくれていたチョコクリームのチューブからチョコを出してパンに乗せた。


「出来ました。どうぞ優斗さん。お召し上がりください。そういえば優斗さんはどんなアニメをご覧になってるんですか?」


「色々見てるよ? 最近は小説からアニメ化したやつばっかり追いかけてるけどね。あとで見てみる?」


「見たいです。一緒に」


「オッケー。じゃあ今日はアニメ鑑賞といこう」


 そう言って優斗は陽狐が用意したベーコンエッグを口に運んで美味しいと言う代わりに笑顔を浮かべる。

 その優斗の笑顔を見て、陽狐も嬉しそうに微笑むのだった。

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