第11話 休日デート
陽狐のスマホを契約し、優斗は陽狐を連れて市内唯一の映画館がある複合施設へと訪れた。
一階は大手のスーパーマーケット、二階から三階は洋服屋や靴屋、そして四階に映画館が入った複合施設の立体駐車場の四階に車を止め、優斗は陽狐を連れて屋内へと向かう。
「大きな施設ですねえ」
「そうだなあ。怪異含めて作った人たちは凄いよねえ。この施設の建設には、がしゃどくろさんも関わってるらしいよ?」
「がしゃさんは大きな方ですから、建築の場でも大活躍ですねえ」
こんな会話をしながら二人は屋内に入ると映画館のエントランスへ足を運んだ。
「優斗さん。何か観たい映画があったんですか?」
「いや。今日はそういうのは無いかな。好きなんだよ、上映予定を見ずにこうやって映画館まで来て上映してる映画を適当に選んで観るのが」
「観たい映画を観るわけではないのですね」
「そうだねえ。あ、これ! 前作が面白かった映画だよ、サメが出てくる映画なんだけどさ」
上映している映画を表示しているモニターを眺めながら、優斗が楽しそうに映画を選んでいる横で、陽狐はそんな優斗を眺め、楽しそうに尻尾を振っている。
いろいろ悩んだ優斗だったが上映開始時間が近かったからという理由で優斗は陽狐を連れて無人券売機の前に立つとサメが出てくるパニック物の映画のチケットを購入。
二人で指定された番号の劇場へと向かった。
「陽狐さん、映画館は来たことある?」
「いえ。今日が初めてです」
「じゃあ驚くかもねえ。テレビとは全然違うから。特に音は凄いから、耳は塞いだ方がいいかも」
「あ、ではこうしておきます」
チケットに印字された座席に座ってそんな話をしていると、陽狐はポンと手のひらを軽く合わせた。
すると陽狐の頭の上から狐の耳が消え、代わりに人間と同じ耳が人間と同じ位置に出現した。
「おお。これが妖術ってやつ?」
「そうです。基礎の基礎、人化の妖術です」
「大丈夫? 疲れない?」
「大丈夫ですよ。そうですねえ、感覚としてはずっと手を握ってるくらいのものですから、問題はありませんよ?」
「でもずっとは疲れるでしょ?」
「一日中は少し疲れますが、妖術は得意なのでご安心ください。優斗さんは優しいですね、昔と変わらず」
自分を気遣ってくれることが嬉しくて、陽狐は優斗が手を置いている肘掛けに自分の手を乗せた。
肘掛けが無ければ腕を組んでいただろう。
そんな二人を他の若い男客たちは妬ましそうに、羨ましそうに睨んでいた。
そうこうしていると劇場の電気が消えて映画本編前の予告映像が始まる。
その急な大音量に陽狐は飛び上がりそうになっていた。
そんな陽狐のことを置き去りに、スクリーンには注意事項が表示され、そして映画の本編が開始される。
こうして約一時間半の映画を楽しみ、エンドロール後のCパートも見終わったあと、劇場の照明が点灯するのを待って二人は劇場を後にした。
「す、凄かったですね! あんな大きなサメ、本当にいるんでしょうか⁉︎」
「地球の海は深いからねえ。いないとは断言出来ないよね」
「海坊主さんとどちらが強いでしょうか」
「流石に海坊主さんじゃないかなあ。震災の時、被災地を津波から守ってくれたし」
「確かに! 日本にいればサメも怖くないですね!」
「いやいや。実はサメが嵐に飛ばされて内陸に来るって映画もあってねえ」
「なんですかその映画! 気になりますね」
「じゃあ帰ったら家で見ようか。配信サイトにあったはずだし」
初めての映画はどうやら陽狐のお気に召したらしい。
興奮冷めやらぬと言った様子で映画の感想を話す陽狐と話をしている優斗は、同好の士を得たときのような喜びを感じながら鑑賞した映画の話をしながら帰路についた。
その途中、二人は自宅に最寄りのスーパーマーケットに寄ると、お菓子とジュース、本日の夕食の材料を購入する。
「今日は俺が夕飯作っても良い?」
「優斗さんがですか? でもそういうのは」
「ちょい待ち。そういうのは女の役目とか言っちゃダメだよ? 日頃のお礼もしたくて俺が言い出したら我儘だからさ」
「でも。今日私ずっと優斗さんに甘えて」
「そうかな? 俺が引っ張り回してるだけな気がするんだけど」
優斗の言葉に陽狐は反論しようとするが、陽狐は困ったような笑顔を浮かべた優斗に何も言えなくなってしまった。
好きな人が自分のために何かしてくれると言っている。
それを無下には出来なかったのだ。
「で、では。お願いします」
「任せてよ。父さん直伝の男飯だけどね」
こうしてスーパーでの買い物を終えた二人は自宅に帰ってきた。
時間は既に十七時を回っているので、優斗は帰宅するなり手を洗い、夕食の準備を開始した。
買った玉ねぎを薄切りにして油を引いたフライパンでしばらく炒める。
そこに豚肉の小間切れを投入してさらに炒め、舞茸、エリンギを適当に刻んで投入、醤油を加え、またしばらく炒めると最後の仕上げとばかりに優斗は冷蔵庫からマヨネーズを取り出す。
「醤油にマヨネーズ、ですか」
調理の様子をソワソワしながら見守っていた陽狐が、堪らず呟いた。
そんな陽狐に優斗はニヤッと笑う。
「まあまあ味は食べてからのお楽しみってやつで」
言いながら、優斗はマヨネーズを大さじ一杯ほどフライパンに入れると塩胡椒で味を整える。
「もうちょっと入れるか」
更に投入されるマヨネーズ。
その様子に陽狐はやや引き気味だったが。
食卓に昨晩の夕食の残りをレンジでチンした白米の入った茶碗と、優斗が作ったキノコと豚肉の炒め物を並べて食すと、その表情は一変。
陽狐は優斗の手料理にご満悦だった。
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