第9話 喫茶店での朝食

 優斗と陽狐は車に乗って町へと向かい、朝食のためにある喫茶店の駐車場に車を止めた。

 

 全国的に展開しているチェーン店で、値段はリーズナブルでありながら、味も良く人気の喫茶店である。


 優斗が喫茶店の扉を開けるとカランカランとベルの音が鳴る。


 すると、お客の来店に、店員であるエプロンを着用した猫又の少女が応対した。


「いらっしゃいませ〜。お二人ですね。お好きな席へどうぞ〜」


 招き猫というわけではないのだが、接客業、というよりは商売をする上で縁起が良いとして雇用率が高い猫又。

 応対した猫又の少女の屈託のない笑顔を見て、優斗はなんとなく猫又が商売をする上で縁起が良いとされているかを感じながら、陽狐を連れて窓際の席に腰を下ろした。


「ご注文お決まりになりましたら、そちらのボタンでお呼びくださいね」


 優斗と陽狐が座った席に、おしぼりとお冷や、メニュー表を置くと、猫又の少女は厨房の方へと向かっていった。


「綺麗なお店ですねえ」


「全国チェーンだからね。さて、陽狐さん何食べる?」


 言いながら、優斗は目の前に座っている陽狐にメニューが見えるように開いた。


「普段はご飯派ですが、せっかくなので。このクリームたっぷりパンケーキというのをいただきます」


「飲み物は?」


「やはりこの場合はコーヒーでしょうか」


「抹茶ラテもあるよ?」


「おお。お抹茶のラテですか。むむむ。ではそれをいただきます」


「じゃあ俺はコーヒーだけで良いや」


 メニューを見もしないで、優斗は楽しそうにメニューを眺めていた陽狐の顔を眺めながら微笑むと、店員を呼ぶためにテーブルの隅に置かれているボタンを押した。


 その直後厨房のほうから「はーい」と先程の猫又少女の元気な声が聞こえてきた。


 そして、伝票用の端末片手にテーブルまでやってきた猫又の少女に優斗はクリームパンケーキ一つと抹茶ラテ、コーヒーを一つずつ頼んだ。


「あれ? 優斗さんは食べないんですか?」


「まあまあ。なんで俺が料理を頼まなかったかは、あとで分かるから」


 優斗の言葉と苦笑いに、頭の上にクエスチョンマークでも浮かびそうなほど、きょとんとして首を傾げる陽狐。

 そんな陽狐の疑問は猫又の少女が持ってきたパンケーキを見て解消されることになった。


「わ〜。大っきい。なんでしょう、写真と全く違うんですけど」


「当店ではコレが通常のサイズとなってます〜。ご注文はお揃いですね? ではごゆっくり〜」


「あ、あの〜」


 陽狐が店員の猫又少女に声を掛けようとしたが、ちょうどその時、出入り口の扉が開いてベルがなったので少女はそちらに足早に向かっていってしまった。


「凄いでしょこの店のパンケーキ。因みにサンドイッチもコンビニのより一回りは大きいよ?」


「な、なんで教えてくれなかったんですか?」


 小さな鍋をひっくり返したのかと言わんばかりのパンケーキを前に耳を寝かせて戦慄している陽狐の姿に苦笑して、優斗は「同じやつを一緒に食べたかったから、かな?」と、はにかみながらテーブルの隅に置かれている小物入れからナイフとフォークを取り出した。


「もしかして、ケーキなども大きいのでしょうか」


「頼んだことは無いんだけど、SNSにあがってた画像のケーキは凄かったよ。間違いなく胸焼けするだろうね」


「このパンケーキでも、胸焼けするかもしれません」


 優斗からナイフとフォークを受け取るも、陽狐は固まったまま冷や汗を浮かべる。

 しかし、頼んだ以上食べないわけにもいかず、陽狐は意を決してその柔らかいパンケーキにナイフを滑り込ませた。


 フォークで刺されたパンケーキは陽狐の口へ。


「んん! おいひいれふ!」


「でしょ? 美味いんだよこの店の料理。量はヤバいけど」


「ゆ、優斗さんも食べてくださいね?」


「もちろん。一緒に食べれば大丈夫だよ。たぶん」


 小さなバケツをひっくり返したようなパンケーキとその上に乗ったソフトクリームのように巻かれたクリームを食べていく二人。


 しかしどれだけ味が良くても飽きは来る。

 それを抹茶ラテとコーヒーで紛らわせ、二人はなんとかパンケーキを完食した。


「ご馳走様でした」


「久しぶりに来たけど、やっぱりとんでもなかった」


「以前はお一人でいらっしゃったんですか?」

 

「いや。前は友達と一緒に来たんだ」


 談笑しながら腹休めをしつつティータイムと洒落込んでいると、携帯ショップの開店時間になったので、優斗は伝票を手に陽狐と席を立った。


「優斗さん、あのパンケーキと抹茶ラテおいくらでしたか?」

 

「いいよ。今日はデートなんだから俺が奢るよ」


「いえ悪いですよ。頼んだのは私なのに」


「その理屈だと、デートをしようって頼んだのは俺だからやっぱり俺が払わないとな」


 ポーチから財布を出そうとした陽狐の手を制し、優斗はレジで支払いを終えると陽狐に向かってニヤッと笑って見せた。

 

 そんな優斗に申し訳なく感じつつも、陽狐は優斗から出た「デート」という言葉に嬉しいやら恥ずかしいやらで顔を赤くしてしまうのだった。


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