日記⑤

『今日、元気な女の子が産まれました。……私たちの娘、すやすやと眠るその顔は正則さんに似てるかな? まだ顔立ちもしっかりしていませんけど、正則さん似な気がします。名前はまだ決めていませんが瑠璃という名前はどうかと正則さんは言っていました。この子が産まれた夜明け前の空の色を見て思い付いたのだそうです。私もいいと思いますが正則さんは名前は大切なモノだからと一晩考えるといって隣に座ったまま考え込んで……、寝てしまいました。ギリギリまで働いて朝方の出産まで私の手を握っていてくれたのですから無理もないかもしれません。お疲れ様、貴方。―――どうせ、そんなこというと頑張ったのは私だとか言ってくるんでしょうね。けど、家族が増えるんです。パパとして頑張ってくださいね』


 日記を読んで、私は娘を出産した時のことを思い出します。


「ふふっ、あの時の正則さんのはしゃぎっぷりは春恵の時の私より凄かったと思いますよ?」

「そ、そうじゃったかのぅ……」


 思い当たる節があるのか……、いえ、私が覚えているんですから正則さんもあの時のことは鮮明に覚えているはずなのでここは攻め時ですね。


「あっ! そういえば覚えています? まだ瑠璃が生まれて一日しか経ってないのに―――、ふふっ」

「な、なんじゃ、なにかワシはやらかしておったか? 記憶にないのじゃが……」

「正則さん、ベビーベットやら何やらを急いで揃えてしまって、まだ退院できないのを伝えたらガッカリしてましたよ?」


 私に言われて思い出したのかやめてくれ~と正則さんは懇願し始めました。まぁ、子どもが産まれて周りのお母さんたちと話すと男はみんな似たような行動を取っていたようなのですけどね。


「それにしても……、出産とはああも過酷なものじゃったとは。分娩室の外に追っても千代子の声が聞こえてきよってワシも一緒に力んでおったぞ」

「……嬉しい話ですけど、出ちゃいけないモノは出さなかったでしょうね?」

「あたりまえじゃろ! こっちにしてからの千代子は言うようになったわい」

「それがお望みだったでしょ? けど、ちゃんと前よりも言葉を交わせて、―――私は嬉しいですよ」


 私がそういうと違いないのぅと言いながら笑ってくれる正則さんが隣にいます。これが夢なのかわかりませんけど、もう覚めることはない夢なのですから私は満喫しようと思います。


「どれ、次のページはっと……」


 そして、妊娠中の正則さんの優しさが羅列された日記が続き、私は少し急かすように日記を捲っていきます。そして、絶対に正則さんに見せたくなかったあるページを開いてしまいます。




『昨日は結婚初夜でした。蝋燭一つの明かりで照らされる部屋で待っている

正則さんはとても男らしくて、けれど、私が布団に入ると優しく口づけをして下さいました。何度目かの優しい口づけを行っていると私も正則さんをもっと感じたいという気持ちが溢れ……―――』


「きゃああああああっ!」

「な、なんじゃ!? いいところであったのに!」


 これはいけません! 絶対にいけません! 下手な官能小説よりもダメな日記です。絶対に最後まで正則さんに見せられないのでこのページがわからないように一気に数ページを飛ばして捲りました。


「……やはり美しいのぅ。もしここで、もう一度挙式が挙げられるなら、千代子の白無垢姿をもう一度みられるのにのぅ」

「―――ありがとうございます。私も正則さんともう一度あの時の気持ちを分かち合いたいです」


 それは正則さんの地元の神社で挙式を挙げたという日記のページでした。もし願いが叶うならもう一度、この人と再び添い遂げたい。今度はもっと自分に素直になって……。そんな気持ちになりながら何時間もそのページを開いて過去を語り合い、日記はどんどん遡っていきます。

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