日記④

『今日は瑠璃の結婚式でした。そういえば、瑠璃が敏さんを連れて来た時の正則さんは初めて見る威圧感を放っていましたね。娘をやるにふさわしい男か見極めると意気込んで顔合わせに挑んでいましたっけ。その後は、まぁ……。男なんてお酒を酌み交わせばあんなもんなのかもしれませんが、意気投合して和気藹々と瑠璃の良さについて語っているところは本人には見せられないくらいベタ褒めのベタ惚れのようでしたけど。けれど、それだけあの子を想ってくれているあの人なら大丈夫でしょう。私もあの子から敏さんについてもはや惚気なレベルでお話を聞いていますし……。花嫁姿の瑠璃は本当に綺麗で、私たちへ書いてくれた手紙は一生モノとして金庫にしまっておきましょう。あの子にも知らない間に多くの友人がいたのですね。たくさんの祝福を貰って、とても幸せそうに挙式を終えた瑠璃と敏さんの未来に幸あれ……』


 そのページは文字でぎっしりと埋まって一枚の写真が挟んでありました。


「―――とても幸せでしたね」

「あぁ。本当にこの日のことははっきりと今でも覚えて、おる……」


 正則さんのその声は震えていて、私はあの時と同じようにこの人の目尻に浮かんだ涙を拭いてあげます。


「あの子が読んでくれた手紙は金庫に入れたままでしたから、こっちに来ていないようだけど内容は一語一句覚えていますよね?」

「もちろんじゃ。毎晩、二人で読んでいたのじゃからな」


「「お父さん、お母さん――――――」」


 二人で声を合わせて手紙に書いてあった言葉を記憶から読み上げます。最後に二人で顔を見合わせて笑います。


「まるでワシらが結婚式をあげているようじゃのぅ」

「ふふっ、そうですね。ならそのページまで一気にまいりましょうか?」


 私も自分たちの結婚式を思い出し、そのページを捲ってみたくなり正則さんに尋ねてみました。


「いや、せっかくじゃから瑠璃の子供の頃の話もきちんと1ページも飛ばさずに捲っていきたいのぅ。どうせ時間はあるのじゃ、何回も読み直すこともできるじゃろ」

「―――そうですね。けど、本当に死後の時間って無限にあるのでしょうか?」

「わからぬが、お前さんと再会するまで何年ここにいたと思うのじゃ。そう考えるのが普通であろう?」


 そういって、このページについて全然語り足りていない正則さんは結婚式の思い出を再び語り出し、私もそれに乗っかって楽しい時間を過ごします。


「あの子、大人しかったのにいつの間にかあんなにお友達ができたんでしょうね?」

「子供の成長は早いからのぅ。それに結婚式を挙げた時には24歳じゃったか? 社会に出て働いておるのじゃ、交友をあれほど広げた我が子をまずは褒めねばな!」


 上機嫌に瑠璃を褒める正則さんを見て、私はすっと胸が軽くなった気がしました。そう……、だったんですね。あの頃は男は外で働いて、家のことは子供の育児含めて全て女の仕事でした。正則さんがそう口に出して伝えてくれたことは、私の育て方を褒めてくれているのと同義でちゃんと貴方に認めてもらえていたんだと実感できた瞬間に思えました。


「はっはっは! やはり瑠璃の話題ばかりじゃのぅ!」


 それから何ページも日記を捲っていきました。書かれているのは娘の成長記録ばかりで、その一つ一つに正則さんとの思い出が詰まっていました。


「こうして日記を読むと正則さんって瑠璃のことかなり構っていましたね。私の気持ちを優先していたら過剰な甘やかしになっていたのは否定できませんね……」

「自分ではわからぬこともあるからのぅ。じゃが、日記を付ければ過去を振り返ることができる。―――お前さんが思っている以上に、十分に瑠璃も春恵も千代子は可愛がっておったよ」


 私の日記はどんどんと遡っていきます。そして、あるページで再び手が止まりました。

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