日記③

『今日は瑠璃の出産予定日です。あの子は敏さんに連れ添ってもらって病院へと向かいましたが大丈夫でしょうか。陣痛はまだ始まっていませんでしたけど初孫ですし早く病院へと向かいたいです。正則さん、早く帰ってきてください……。気持ちだけ急いても仕方がないので、夜遅くになってもいいように明日の朝ごはんの作り置きなどできる家事は出来るだけやっておきましょう。はぁ……、瑠璃の時を思い出すとやっぱり自分が出産する立場じゃなくてもソワソワしますね。いえ、出産する立場じゃないから余計にソワソワするのでしょうか。まさのりさんはやく~!!!』


 私は先程まで孫娘の可愛い姿について、語り尽くせないほどの賛美の言葉を並べて日記が続いており、すでに日記を直視できないほどの羞恥に晒されているわけですが、トドメと言わんばかりのハイテンションで書いた瑠璃が生まれた日の日記を正則さんと読みました。


「その……、これは違うんです……」


 沈黙が居た堪れなくなり私から声を出します。違わないんですけど、もうむりっ! って感じです。


「ふふ、千代子が春恵のことを瑠璃と同じくらい可愛がっていたのを知っておるしのぅ。日記にも書いてあったのじゃ、ワシだってお前さんが孫娘にとても喜んでいたのはわかっておる。もちろんワシもこの日は忘れられない一日の一つじゃぞ」


 日記というのは読み返す方が恥ずかしいというのを嫌というほど思い知らされるページでした。それでも、正則さんも春恵のことをそう思っていてくれたことを口にしてくれて嬉しかったので少しだけ恥ずかしさは和らぎました。


「……けど正則さん、あんまり春恵に構ってあげてませんでしたよね?」

「あの子は瑠璃と敏くんの子じゃろ。孫娘がいくら可愛くとも過剰に援助をしたり遊んであげたりは違うんじゃないかのぅ」

「それはそうですけど。正則さんが構ってあげないので私もあまり関りに行きづらくて……」


 死後にそんな不満を言っても仕方がないですが、どうしても日記を読むとあの時の気持ちが蘇ってしまいます。


「ワシが死んだあとはどうじゃ? それならその後にいっぱい甘やかした、……わけじゃなかったじゃろ。その先の様子はすでに日記で読んでおるからのぅ」

「……そうですね。気を使わせてはいけないという気持ちと、二人の子供なので私が甘やかすのも違うというのはさすがにその頃には私もわかりましたよ」


 はぁ、私の負けですね。降参です。ですが、このままこのページを閉じるのは癪なので正則さんにとびっきりの情報を教えてあげます。


「あ、そういえば~。正則さんが生前に使っていらしたマッサージチェアですけど、瑠璃も春恵も凄く気に入ってしまってあの子たちの家へ持っていかれましたよ?」

「なんじゃと! そうかそうか。あの子たちもあのイスの良さが分かるか~。さすがはワシの娘と孫娘じゃな」


 上機嫌になった正則さんは自宅に置いてあったマッサージチェアの良さをそれはもう日が沈むまでという表現ができるほどの時間を語ってくれた。正直に言えば私はそのマッサージチェアには興味はないのだけど……。


「こんなに楽しそうな正則さんが見えるならあのイスも好きになってあげてもいいかな」


 そんな現世で今も愛されて使われているであろう、健康器具に感謝をして私はこの話を終わらすために次のページを捲った。

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