死後の世界
『私、篠田千代子が日記を付けるのはこれが最後になるかもしれない。医者に言われずとも、もう体が思うように動かない私の体には死期が迫っているのを感じている。だから、このページを最後にしよう。そして、大切な思い出は私たちの『思い出箱』に仕舞っていこう。先立っていったみんなの日記、誰かが亡くなるたびに一冊づつ減っていって今は私の日記しか入れるモノのないこの箱に、赤線で名前が消されて私の旧姓での名前しか残っていない出席名簿と共に』
「っ!!!」
その日記を読んで私は悶絶した。まさかあの世の同窓会をしている私の元へあの日記が届けられるとは思わなかったからだ。そして、中身を確認すると確かに私が生前に書いたあの日記帖たちであった。
「千代子さん、どうされたんじゃ?」
「こいつ、さっきまで俺たちの日記を読んで爆笑してやがったし俺たちにも読ませろよ」
「ぜったーーーいに! いやじゃ!!!」
私は胸に抱えて全力で逃げ回ります。しかし、ここはあの世。ということは、当然あの人もいるのです。
「千代子、ワシにも見せてくれんか? お前さんが生前、どんな気持ちでワシの妻として生きていてくれたか知りたいんじゃ」
永遠の愛を誓い合い、最期までを添い遂げて数年前に見送った私の大切な人……。
「……正則さん。―――っ!!! わかりました。読ませるのは貴方だけですからね! 絶対に内容は他言無用ですよ?!」
旧友たちと話言葉が違うのは死んだばかりの私の魂の年齢が定まっていないからでしょうか。学生時代の話し方と違って正則さんに対しては大人っぽく見られたい一心で落ち着いた話し方ができました。
「ありがとう。生前は大人しかったお前さんが同級生たちと騒いでいる姿をみるとワシには猫を被っておったのかのぅ」
「そんなことはありません! ただ……、貴方がいつまでもかっこよくて、良き妻として貴方に私のことをずっと好きで、あなたにも好きでいて貰いたかったから……」
生きている時は言えなかった言葉、結婚してからもずっと好きという気持ちをやっと言えた。お互いに死んでしまったけど、またこの人と会うことができてよかった。そう確かに思えました。
「知っておるよ。時折、不安そうにしてる姿が心配でワシも気を使っていたしのぅ。―――ワシも愛しておるよ。生前も、死んだ今も、そしてこれから先ずっと。たとえ生まれ変わろうとも、ワシのこの気持ちだけは変わることはない」
真剣な眼差しで私の目を見てそんなことを言われたら……、目を逸らせないじゃないですか。正則さんの意地悪……。
「私も同じ気持ちです。今でも好きです。―――愛しています」
二人だけの世界。どこにも逃げられないあの世だからこそ、魂を曝け出してしまっているあの世だからこそ、私たちは生前よりもずっと心を近して触れ合えた、そんな気がしました。
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