第21話

応接室を出て、和馬と交代をする。

和馬を待っている間に妙に引っかかっていた事が頭に残る。

もし優香が説得できなかった事で亡くなっていたらどうしようか、僕が勧めたからじゃないかと思えてくる。

もし、そうなら僕は何も知らずに優香に無責任な事を言って追い込んでしまったのではないかと考える。

しばらくして和馬も応接室から出てきて僕たちは教室へと戻る。





それからの僕たちはどこか空虚なままに日々を過ごしていた。

定期考査に向けた勉強や受験に向けた勉強、やらなければいけない事はたくさんあった。

でも僕は何か大切なものがこぼれ落ちてしまったように何をするにも気が向かずにいた。

日に日に時間が過ぎていく中で僕たち2人は自然と会話も減りそれぞれの時間を過ごす事も増えていった。


仲が悪くなった訳でもなくただごく自然と距離ができていく。

それからも何度か刑事さんから話を聞かれる事もあったが基本的に内容は変わらず僕からは特別何か新しい情報が出る事はなかった。


これまでの期間で、何度も僕自身が優香のことについて考える事があった。その度にやはり、もう一つの生活について知る事が本当の意味で彼女を知る事になるのだと思った。


お通夜に参列した際に、優香の家族は4人家族だという事を知った。

歳の離れた弟と両親がおり、両親は僕たちの世代にしては若い方だという印象を持った。2人とも下を向いていてあまり表情は見えなかったけれど優香にとってのもう一つの生活、それはきっとこの家族に関係があると思った。

優香の弟はまだ小さくてたくさんの人が参列していることに戸惑っている様子だったけどその横にいるお母さんの表情が少しだけ見えた。

当然のように優香のお母さんは大粒の涙を流しながら泣いていて、その横にいるお父さんの表情はあまり見えなかった。

きっと悲しいに決まっているし、僕と同じように何か後悔だってあるはず。何があったのかは知らないけれど、僕はただ一瞬映った優香のお母さんの表情が泣いていたこと、優香が死んでこんなに涙を流している事が優雅に伝わっていれば良いなと思った。

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