第12話

帰り道、今年初めてのセミを見つけた。

まだ夏は始まったばかりだというのにそのセミは道端で裏返っている。何かで聞いた事があったけどセミは成虫になるまでの期間の方が長いらしく、そのほとんどを土の中で誰にも気付かれる事なく過ごすらしい。

このセミも必死に生きてきたのに少し早く地上に出て仲間よりも早く死んでいくんだなと思った。

なんて儚い生き物なんだろうそう思いながら横を通り過ぎる。


家に着くと20歳になったばかりの姉ちゃんがお酒を飲んでいる。

「姉ちゃんって将来やりたいことあるの?」

「ない!!!」

「なんで大学行ってんの?」

「やりたいこと見つけるため!」

当然の如く答えが返ってきた。

確かに世の大学生はそれが普通なのかもしれない。

医学部なんかに行く人は違うのかもしれないけれど大半の人はやりたいことが明確なわけではないのかもと思った。


夏休みに入っていよいよ受験勉強も追い込み期間に変わっていく。

この夏の勉強できっと僕の人生は決まる。そう思いながら必死に勉強をした。家で取り組む事がほとんどだったけど、高校生最後の夏休みという事もあって何度か3人で集まっては息抜きをしていた。

和馬が引退した事もあり3人で過ごすことが増えていた。毎日が楽しく何気ない日々を過ごしていた。


3人で出かける事も多くなってカラオケや水族館なんかにも行った。

相変わらず優香はバイトが忙しそうだったけどそれでも休みの日には嬉しそうに来ていてなんだか僕も嬉しくなった。


当然のことのように暑い毎日でクーラーの効いた店内で飲むメロンソーダはいつも以上に美味しくてまるで僕たちのこれからを応援してくれているようだった。

「2人は夏休みどこか行くの?」

「僕はおばあちゃんの家に行くよ。毎年行って花火大会をみて過ごすんだ。」

和馬に聞かれてそう答える。

「私はとくにそういうのはないかな。いつも通りバイトって感じ!」

優香は高校最後の夏休みだというのに相変わらずバイトが忙しいらしい。

「大変だね。そうだ、僕たちで花火しようよ」

僕はその場の思いつきで口にする。

「ほんと!?やりたい!!」

そう言って優香はすごく喜びながらもどこか切ない顔をしていた気がする。

和馬もいいよと言ってくれて僕たち3人は一緒に花火をすることになった。

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