第18話 初心者幽霊2
またいた。
例の初心者幽霊だ。
俺が愛犬を連れて、いつものように西院の前を通ると、寺門の陰からこちらを伺っている。
やれやれと思いながら、前を素通りしようとすると、「もしもし」と消え入りそうな声で話し掛けて来る。幽霊だから消え入りそうなのは当たり前か。
「何ですか?まだ成仏していなかったんですか?」
俺がつっけんどんにそう聞くと、幽霊は喜び勇んで近づいて来た。
「あなたを怖がらせることが出来ないまま成仏するのが、とても未練で。懸命に修行を積んでまいりましたので、その成果をご覧下さい」
幽霊が修行?!俺は思わず訊いてしまった。
「どんな修行をされたんですか?」
「近頃の皆さんは、携帯電話を見ながら歩いてらっしゃる方が多いので。後ろからついて行って、肩越しに画面を拝見してリサーチさせて頂きました」
そっちの絵面の方が、よっぽど怖いだろうと思いながら、
「じゃあ、拝見しましょうか。どうぞ」
と言ってしまった。悪い癖である。
幽霊は嬉しそうに頷くと、
「ではまいります」
と言って後ろを向く。そして両手を肩まで上げてポーズを決めながら、パッと振り向いた。
やっぱりダメじゃん。
その顔はゾンビに変わっていた。しかもお笑い系。
俺は呆れかえって、幽霊の肩をポンポンと叩いた(実際は、実体がないので叩いた振り)。
「あのねえ、あんた。幽霊がゾンビに化けてどうすんの?」
「あ、いえ。皆さまゾンビ系の動画をよく見ていらっしゃったので、これが最近のトレンドかと…」
幽霊は狼狽えながら答える。
「全然駄目です。修行し直してきなさい」
俺はそう言い捨てると、愛犬を連れて散歩を再開した。
後ろから、さめざめと泣く幽霊の声が聞こえる。
あいつは当分成仏できそうもないな。
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