狂気

鈴ノ本 正秋

 

寝坊して、一限目と二限目の休み時間から登校した俺は目を疑った。一年三組の教室にいる全ての生徒がダンボール箱を頭から被り、静かに背筋を伸ばして席に座っているのだ。


俺はそんな異様な光景に困惑しつつも、どっきりを仕掛けられていると思い、平静を装って、一番後ろの自分の席に着いた。

こういう学生時代の悪ノリは無視をするのが一番だ。


自分たちがやっていることのノリの寒さにいい加減気が付け。もう高校生なのだから。

俺は片手で頬杖を突きながら、もう片方の手でスマホを触っていた。

だが、俺が教室に来てから、数分経っても教室の誰も全く動かない。ぴしりと伸びた背筋は鉄の芯でも入っているのではと錯覚してしまう。


だが、よく考えてみたらおかしな話だ。俺はこのクラスで浮いている存在のはず。

クラスメイト全員を巻き込んで、どっきりを仕掛けられるほどの人物ではない。

何かがおかしい。


俺は席から立ち上がって、隣の青山さんの肩に触れてみた。ブラウス越しに感じる細い肩と体温。間違いなく人間だ。

だが、俺が話すことすらできない高嶺の花の青山さんの肩に触れているというのに、ぴくりとも動かない。


そっちがその気なら存分に楽しませてもらおうか。


俺は青山さんの細い肩から首元まで手を伸ばした。隣でずっと妄想していた。その白く細い首を絞めたら、どれだけ高揚できるのだろうと。

俺の両腕が青山さんの首を覆った瞬間、不意に動き出した青山さんの両腕が俺の両腕を抑えた。


「やめて、高橋君!!」


それが合図となり、一斉にクラスメイトがダンボール箱を頭から外した。


「やめろ、高橋!!!」


クラスメイトの怒声が教室内に響き渡り、廊下にも広がっていたことだろう。二分後には騒ぎを聞いた教師が駆けつけた。だが俺は青山さんやクラスメイトに手を抑えられ、青山さんの首元から手を離せずにいた。

そして、俺の視界の端ではニヤリと笑うクラスメイトと綺麗に片づけられたダンボール箱があった。

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