♰Chapter 40:某所にて約定2
「終わったなら
地面の投影が月魔晶のほかに、さらに三つのアーティファクトを映し出す。
「氷鉋・伊波・新型アーティファクトは月魔晶の偽装運搬のための犠牲、御法川は聖杯の性能実験のための犠牲です。四月の月魔晶、五月の聖杯。そしてそれ以前から私が収集していた錫杖と剣。これら四つのアーティファクトを全て揃えることで、この現代に古代の極大魔術を顕現させることができるんです」
あまりにも突拍子もない話に全ての魔法使いが黙りこくってしまう。
そこで初めて口を割ったのが、
”僕たちが大アルカナであるならそれらは小アルカナかい? ひひっ! これはまた面白いことを考えるものだね。一方で月魔晶はある程度の数を確保できたと聞いているけど、聖杯・錫杖・剣はわずかな数だとも聞いている。しかもいずれも古代アーティファクトの複製体――いわゆる偽物だ。複製といえば劣化と結びつけるのは無理ないよね、うん。それで十分な効果が得られるのかい?”
ぽん、ぽん、ぽん、ぽん。
カードの中から次々に四つのアーティファクトを象った偽物が出てくる。
それからそれは真っ白な鳩になり、空間を一周回ったあとに外に飛び立っていった。
カード越しにも干渉する愚者の技の一部だ。
「もちろん対策済みです。本物はただの一つとして入手出来てはいませんがその設計図は全てわたしの手にあります。短ければ三か月、長くとも半年あれば膨大な量の模造品を複製できます。数があれば複製品といえ、本物と違いない能力を発揮できるのですよ」
”ん~いいね! どこで錫杖と剣を手に入れたの~とか、どうして多くの複製品で本物のアーティファクトと同じ力を発揮できることを知ってるの~とか。色々聞きたいこともあるけどそこの種明かしはいつかに期待しよっか。それじゃあ顕現させる古代魔術とやらはどういうものなんだい?”
「東京中の一般人を”魔法使いにしてしまうこと”です」
その言葉にタロットの魔法使いたちの中から楽しむもの、変わらないもの、嬉しそうなもの、躊躇うもの。
様々な声と吐息が漏れる。
”ひゅーっ! それは凄い。規模もだがそれ以上に世界の理への挑戦だ。下手を打てば世界の強制力によって消されるよ、マイマスター?”
「問題ありませんよ。わたしはすでに世界の理の外にある存在ですから」
”それってどういう意味~?”
「ふふ、いつかきっと教えてあげますよ。正義も理解してくれましたか?」
”ああ、彼らの犠牲は無駄ではなかったと納得したよ。だが人間を根絶する目的と魔法使いにすることは矛盾していないか? 魔法使いも理外の存在ではあるが人間だ”
「その通りです。ですが我々にはさらなる力と人手が必要です。大いなる目的のために協力してくれる人がいるというのなら矛盾を承知で引き入れるべきだと考えます」
”主がそう考えるなら納得しよう”
「感謝します」
それから大地の映像が切り替わる。
「今後の懸念事項はこの大規模な計画を運用するまでに、どれだけ現状の脅威である〔幻影〕の目を欺けるかです。しかしこれについて変更することはありません。これまで同様、こちらから戦力を小出しにしつつ、来たるべき日に備えましょう。最後にわたしたちの関与しないところで起こっている”屍者”騒動です」
それは幾つかの都心部の映像を切り取ったものである。
人々を襲う死者の群れ。
戦術も戦略もなく、手当たり次第に血を飲み肉を喰らう。
「私がいるここには決して”屍者”たちはやってこれないでしょう。ですがあなたたちの何人かを含め、私たち〔約定〕の構成員も相当数がこの区画に取り残されている。これによって約定に関連する拠点も打撃を受けています」
法王は疑問を呈する。
”ですがそれはいいことなのでは? 約定の最終目的は人という種の根絶です。無益な争いを繰り返し、弱き者を見捨てるこの世界に絶滅という結果でもって報復を成すこと。それはここにいる〔革新者〕のみでなく、約定に所属する多くの人間が共有している気持ちです。犠牲者を生んでも、それ以上の人間がいなくなるのであれば、それは彼らとて本望……という気もしますよ”
「わたしもそう思います。しかし人員は有限です。先ほどの話に繋がりますが来たるべき戦い――その時にはいくら味方がいても溢れることはない。だからこそ今救えるのであれば約定の仲間は救ってもいいと考えている」
”……甘いな、我々の主は”
「ふふ、確かに人類を滅ぼそうと目論む魔法使いの言葉ではないかもしれません」
かん、と靴音が鳴る。
「今回の”屍者”の件。今後の行動にも少なからず影響を及ぼす重要な分岐点です。つまり”屍者”にかかりきりになっている間に少しでも対幻影をこの時をもって行うか、図らずも幻影と同じように”屍者”の殲滅に動くか。あるいは静観するという選択もあるでしょう。折角です。今から〔革新者〕の皆さんに投票を行ってもらいます」
意義のある者がいないかを確認してから、選択肢を示す。
「第一の選択肢は、この機に乗じて幻影に攻勢をかけるほうが良いと思う方は赤色の魔力を」
およそ五人に満たないカードが煌めかせる。
「第二の選択肢は、幻影と達成目標は被りますが、”屍者”の殲滅を望む方は黄色の魔力を」
わずかに一人が煌めかせる。
「では最後の選択肢です。約定の拠点防衛を固めつつ、状況を静観するを希望する方は青色の魔力を」
その他の全員が煌めかせる。
これで結果が出たことになる。
「結果は宣言するまでもなく明らかですね。今回の件は、拠点を固めつつも静観とします。他の約定構成員にも後ほどわたしから通達を出しておきましょう」
会議が終わるとカードは金色の魔力を散らしながら消失した。
ただ一部、法王と正義のカードだけは残っていた。
『主』はそれに気付いてはいたがそのまま護衛と共にその場を後にした。
”やあ、法王。先ほどは助かったよ。望んで悪魔と喧嘩などしたくはないからね”
”構わない。私自身、ようやくまとまり出した約定を再びバラバラにしたくはないからな”
”同意だ。それにしてもわたしたちの主はどうやって約定を統一したんだろうね?”
”私も詳細を知るわけではないが、主は世界に不満や後悔を持つ人間をスカウトしているらしい。その時、その場所、その場合において相手がもっとも欲っしている言葉や物を提供しているとも。当然スカウトされた側は主の味方をするだろう。そういう人間が増えて行けば、必然と派閥が大きくなり、他の派閥を飲み込んだということではないか?”
”なるほどね”
正義の魔法使いのカードがゆっくりと消え始める。
”それじゃ、次は生身の肉体で会えることを楽しみにしているよ、法王”
すぐにその姿は消えていた。
残された法王は溜息を吐いた。
”……やれやれ、私は役割上法王なだけであって、実際は法王などではない。小さな教会の、ただの司祭だよ。それに”
今日の会議にも出席していたが一言も話さなかった女教皇を思い出す。
”法王も教皇もただの表現の違いだ。どちらも私などではなくまさしく彼女の方がふさわしい。今頃はきっと――”
仲間想いな女教皇の現在に思いを馳せた。
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